第14話 放課後の練習

 カサ魔法大学でのはじめての授業。

 しかし、何も頭には入ってこない。

 私の頭の中は、クリスとマルシアのことでいっぱいになっている。

 なんとか覚えているのは、担任のカミラ先生がやさしそうな人だったことくらいだ。


 放課後になるとミミが声をかけてくれた。


「じゃあ、練習する?」


 救われた。

 笑顔の素敵なミミが隣の席にいてくれただけで、今日の灰色の風景がいくらかは色づいて見えてくる。


「うん、お願い」


 マジックライトの練習である。

 このままでは歓迎パーティーで恥をかいてしまう。


 私たち二人は校庭の桜の木に向かった。

 あの桜の木である。

 私が特待生試験の時に満開にした桜。まだ桜は咲き誇っている。

 その木陰に立った。


「まずは私が見本をみせるわね」

 そう言ってミミが両手を空に向けて広げた。


 スーッと空気が動いていく。

 何かを体へ吸い込んでいるかのようだ。


「ハッ!」

 ミミが短く声をあげた。

 すると。

 ミミの体全体が、電球のように光り輝いてきた。

 オレンジ色を帯びた美しい光だった。


「すごいミミ、こんなのはじめて見たよ」

 私は思わず声をあげる。


「ありがとう。でも私なんかまだまだよ」

 ミミは照れながらこう付け加えた。

「マルシアはもっとすごい光を放つから」


 そうなんだ。

 ミミの光も言葉にならない美しさだったけど、マルシアはもっと上をいっているんだ。


「じゃあ、私もやってみるね」


 ミミの説明によると、自分の体に黒魔法をかけてあふれ出る魔力で体を輝かせるそうだ。

 けれど、私、黒魔法はほとんど使えないんだよね。

 唯一使えるのはクリスに教えてもらったこれだけ。


 ──ブリザード──


 心のなかで術式を唱える。


 さあ、輝いて。

 私の体よ、ミミみたいに輝くのよ。


 見様見真似で両手を空に向けて広げた。

 体の中から何かがあふれ出てくるのがわかった。


 自分の体を確認してみる。


 光っている。

 薄くだが、私の体が白く輝いている。


「うん、できたね。きれいな光だわ」

 ミミがうれしそうに言う。


「ありがとう。でもミミに比べると光も弱いしまだまだだわ」


「最初からそんなにうまくはいかないわよ。それに誰だって得手不得手があるわ。黒魔法が得意でないのなら、マジックライトは難しいかもしれないわね。特待生だからといって優勝を目指すことなんてないわよ。参加するだけで充分よ」


「うん」

 なぐさめられている。

 けど、そうは言っても私は聖女候補の特待生……。

 みんなに無様な姿を見せるわけにはいかなかった。


 そのあと、何度かミミに教えてもらいながらマジックライトを試したが、どれもぼやけた光しか放つことができなかった。


 やっぱり黒魔法の苦手な私は、これが限界なのかな。


「ミミ、教えてくれてありがとう。私はもう少しここで練習して帰るわ」


「そう。じゃあ私はこれで」

 ミミが明るく手を振って帰っていった。


 いつも楽しそうにしていて、それでいてやさしい娘。

 あんな娘がいてくれて本当に良かった。


 そう思いながら私は一人で練習を続けた。


 すると、どこからか私に声をかけてくる人がいた。


「こんにちは、アナスタシアさん」


 男の人の声だった。


 あっ。


 私はその姿を見て思い出した。

 昨日、大学の受付事務にいた人だ。

 私を食事に誘ってきた男性職員。


 どうしてこの人がこんなところにいるの?


 そう思っているときだった。


「マジックライトの練習をしているんだね。僕も手伝おうか?」

 男性職員はさわやかな顔をしてそう言ってきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る