第13話 マルシアとクリスって

「ところで」

 ミミは話題を変えようとしてくれているのだろう。

 とびきりの笑顔を私に見せながらこう言った。

「アナスタシアはどんな光を出せるの?」


「光り?」


「歓迎会のマジックライトよ。みんな特待生の光がどんなものだろうかと期待しているのよ」


「期待って……。私、魔力で体を輝かせたことなんかないわ」


 魔法のエリートが集まるカサ魔法大学。

 そんな中で、魔法対決をして勝てる自信はなかった。

 特待生という事実が逆にプレッシャーとなっている。


「私、自信ない。やったことのないマジックライトで勝てるはずがない」


「大丈夫よ、アナスタシアならきっと皆が驚く光を発することができるわよ。あの桜の木をよみがえらせた魔法、今でも私の頭に焼き付いているわ。あんな素晴らしい魔法が使えるんだもの、あなたはマジックライトでも間違いなく誰よりも美しく輝いていられるわよ」


 ミミは私を肯定して勇気づけてくれている。

 やさしい娘だ。


「ねえミミ、あなたもマジックライトに出場するの?」


「ええ、その予定よ。そして一位になってみんなの前でクリスとダンスをするのが私の夢よ」


 クリスとダンス……。


「というのは冗談!」

 ミミは明るく続ける。

「今年も一位はマルシアだわ。彼女の光は圧倒的に美しいから。残念だけど、いくら特待生のアナスタシアでもマルシアにだけは敵わないと思うわ」


 そうなんだ。マルシアの光ってそんなにすごいんだ。

 そのマルシアと、クリスは昨年ダンスしたんだ。


 今年もそうなるのだろうか?

 そんな場面を見せつけられるのだろうか?


「ねえ」

 私はミミに聞く。

「男性の一位はクリスに決まっているの?」


「うん、間違いないと思う。昨年もダントツで一位だったから。彼に敵う人はいないわよ」


 だったら……。


「ミミ、お願いがあるの」


「なに?」


「私に魔力で体を輝かせる方法を教えてくれない?」


「えっ? 特待生に私が教えるの?」


「ええ。このままではマジックライトで恥をかいてしまうわ。お願い!」


「いいわよ。よろこんで! じゃあ、放課後に特訓しましょう」


 そうミミと話していた時、私の席の前に一人の生徒が近づいてきた。

 私はその人に視線を向ける。

 姿を確認してちょっと驚く。

 そこに立っていたのは、今うわさ話をしていたマルシアだったのだ。


「ねえ、ちょっと聞こえたけど、歓迎パーティーの話で盛り上がっているようね」


「そうよ」

 ミミはやや緊張した面持ちで話す。

「今年もマルシアが優勝するだろうって話していたところよ」


「そんなことないわ。ここに聖女候補の特待生がいるじゃない。私が特待生に勝てるわけないじゃない。もし勝ってしまったら、この特待生はまぐれで試験を通ったなんてウワサが立ってしまうわよ」


 マルシアってやっぱり性格悪い娘だ。

 平気で嫌味なことを言ってくる。

 でも、こんな言葉に負けてはいけない。

 私は自分ひとりで生きていくために、また魔法の世界に戻ってきたんだから。

 もう後戻りなんてできないんだから。


「それはそうと、アナスタシアさん。あなたにちょっと伝えたいことがあるの。二人っきりで話したいので、こちらに来てくれる」

 マルシアはそう言って教室の角を指さした。


 私は言われるがままに席を立ち、人気のいない場所でマルシアと二人っきりになった。


「はじめに、はっきり言っておきたいんだけど……」

 マルシアはきつい目を向けてきた。

「私とクリスはみんなが認めている仲なのよ。こんなこと言いたくないんだけど、二人っきりで夜を過ごすような仲なのよ。だから、いくら友達だからといっても、あまりクリスには近づかないでちょうだいね」


 その言葉を聞いた私は、めまいを起こしそうになった。


 みんなが認めている仲。

 二人っきりで夜を過ごすような仲。


 そういえば、それとなくミミもそんなことを言ってたっけ。


 やっぱりそうなんだ。

 私はクリスに遊ばれているだけなんだ。

 さんざん持ち上げられていい気になっていた私がバカだった。


 そんな思いが私を支配した。

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