第二章 魔法大学生
第11話 はじめての登校
特待生の入学手続きをした翌日、私ははじめての授業を受けるために大学へ向かった。
あの名門であるカサ魔法大学の授業。
どんな内容なんだろう。
レベルが高くてついていけなかったらどうしよう。
空は私を祝福するように晴れていたが、私の心は不安でどんよりと曇ってしまっていた。
少し足が震えているのかな。
自分の足が自分のものでないような気がしてくる。
そんな時、前方から見慣れた人影が現れた。
「おはよう、アナスタシア」
そう言って笑顔を見せたのはクリスだった。
「クリス! 来てくれたのね!」
私の心が飛び跳ねた。
それもそのはずである。
昨日、私はクリスに告白されたのだから。
「どうだいアナスタシア、登校初日の気分は」
「正直、不安でいっぱいよ」
その言葉を聞いたクリスはフッと笑いながらこう言った。
「大丈夫だよアナスタシア。君は周りの人を幸せにする才能を持っているんだから。自然に人が集まってきて、クラスの人気者になれるよ」
そうだろうか?
私にそんな才能あるのだろうか?
きっとクリスは私を落ち着かせるために適当なことを言っているんだわ。
でもうれしい。
どちらにしてもクリスは、私を安心させようとしてくれているんだ。
太陽の光が、私たち二人を照らしている。
私たちには、このあとも何の障害もなく明るい未来が約束されている。
そんな気持ちになった。
なにしろクリスはこう言ったのだ。
「アナスタシアのことを誰よりも大切に思っている。誰よりも君のことを愛している」
思い出しただけで、ドキドキとしてくる。
正直、昨日は何度もクリスの言葉が頭に浮かび、すぐには寝付けなかった。
「ねえ、私が入るクラスは4Aと聞いているんだけど、どんなクラスなのかしら?」
「名門カサ魔法大学の中でもエリートが集まるクラスだよ」
カサ魔法大学に入るだけでもすごいことなのに、その中のエリートが集まるクラス……。
「私、大丈夫かしら? そんなところで、ちゃんとやっていけるかしら……」
「大丈夫に決まっているだろ。アナスタシアは特待生の試験に合格したんだから、もっと自分に自信を持ってもいいと思うよ」
クリスはその言葉のあと、こう付け加えた。
「俺も同じクラスにいるから安心して。何があっても君の味方でいるから」
そんな話をしているうちに、私たちはカサ魔法大学に到着した。
門をくぐると一人の生徒が近寄ってきた。
「おはようクリス」
その生徒はクリスにだけあいさつをする。
「おはようマルシア」
クリスもそうあいさつを返した。
そうだった。
近寄ってきたのは特待生試験のときにも会ったマルシアだった。
マルシアを見ていればわかる。
彼女は明らかにクリスに好意をいだいている。
対するクリスはどう思っているのだろう?
彼の立ち振舞から、その答えは導き出せなかった。
けれど、気になる。
マルシアは私なんかよりずっときれいな女性だった。
私なんかよりずっと華やかで美しい、赤いバラのような女性だった。
「あっ、横にいるのは昨日の特待生さんね」
マルシアは遅れて気づいたように言う。
その言い方に、少しトゲがあった。
「アナスタシアです。今日からここの生徒になりました。よろしくおねがいします」
「よろしくね」
マルシアはそう言うとすぐにクリスに顔を向けた。
「そうそうクリス、歓迎パーティーの件はこの娘に伝えたの?」
「ああ、それね。まだ話していない」
「特待生が入ることになったときは、恒例のあれがあるんだから、ちゃんと伝えておかないと駄目じゃない」
マルシアの話し方に、クリスとの距離の近さを感じさせられた。
それにしても。
それにしても歓迎パーティーってなんだろう?
言葉通り、私を歓迎してくれるものなのだろうか?
「アナスタシア、あとで伝えようと思ったんだけど、一週間後に君の歓迎パーティーが生徒主催で開かれることになっているんだ」
「生徒主催の歓迎パーティー……」
「で、そこで……」
クリスが何かを説明しようとすると、横からマルシアが口をはさんできた。
「そのパーティーでは恒例の催しがあるのよ。今から楽しみだわ」
「恒例の催し?」
「そう、パーティーでは、生徒たちが魔力を競い合う大会が開かれるの」
マルシアは私に目を向けて言う。
「その大会で、あなたがどんな光を放ってみんなを驚かせてくれるのか、今から楽しみにしているわね。聖女候補の特待生なんだから、当然のことだけど大会では優勝してね」
どういうことだろう?
光を放つ?
私は意味がわからないまま、足を進めた。
クリスが大会のことをもっと詳しく教えてくれるのだろうと待っていたが、彼は何も話すことなく歩いていった。
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