第7話 魔法特待生
その日から私の特訓は始まった。
約束通り、クリスは時間を見つけては、毎日私の訓練に付き合ってくれた。
忘れかけていた魔法の世界。才能の塊であるクリスに励まされていると、無理だと思われることでもなんでも挑戦してみたくなってしまう。
「これだ! アナスタシアの白魔法を際立たせる方法がわかったよ」
ある日、クリスはそう言ってきた。
「えっ?」
「相乗効果さ。白魔法で幾重にも魔法陣を張り、そこに攻撃系の黒魔法を注ぎ込むと、相乗効果が起きてとんでもない力を発揮するんだ」
「でも、私に黒魔法は使えないわ」
「俺が教えるよ。白魔法を増幅させる一種類を覚えればいいだけだから」
そんな毎日が続いた。
そして、あっという間に一ヶ月が過ぎてしまった。
試験当日、クリスとともにカサ魔法大学の校門をくぐる。クリスと歩いているからだろうか、それとも特待生試験を受ける人物を興味本位で眺めているのだろうか、周囲の学生の視線が私に集まっているように感じた。
「おはよう、クリス」
女子学生がクリスに近づき声をかけてきた。
「ああ、おはよう、マルシア」
「この娘なの、あなたの知り合いの受験生は」
「そうだよ」
マルシアは私に顔を向けてこう言ってきた。
「クリスの知り合いなら、さぞかしすごい使い手なんでしょうね。でも、特待生試験は難関よ。もし合格できなかったとしても落ち込む必要はないわ、落ちて当たり前だから。それより、学校一の人気者のクリスが女の子を連れてくるって、大変な噂になっているのよ。みんなが注目しているなかでの試験になるから、プレッシャーに負けないようにしてね」
マルシアは私を応援してくれているのだろうか、それとも遠回しに足を引っ張ろうとしているのか、解りかねる発言だった。
「さあ、試験会場は校庭だ。時間も迫っているし急ごう」
クリスが足を早め、私はあわててその後ろをついていった。
石畳の道の脇に、白い建物がそびえ立っている。これがエリートの集まるカサ魔法大学の校舎なのだろう。
校庭に出ると、私は目を丸くした。
「何これ……」
先程のマルシアの言葉通り、この試験には多くの学生が注目しているようだ。
校庭の周りを学生が幾重もの円になり囲っているのだ。
クリスは何事もないような顔で生徒たちが見つめる中を歩いていく。
校庭の中央に縄で囲まれたスペースがある。立入禁止の札があり、おそらくこの場で試験を行うのだろうか。
そう思っていると、一人の人物が私たちに近づいてきた。
「おはよう、クリス」
「おはようございます。今日はよろしくおねがいします」
クリスが丁寧にその人物に挨拶をすませると、こちらを向いた。
「試験官のステファン先生だよ」
「あ、よ、よろしくおねがいします」
私は急いであいさつをする。緊張して言葉がうまく出てこなかった。
「君かい、魔法をあきらめて給仕をしていた娘というのは」
「あ、はい」
「本来なら、試験を受ける資格などないんだが、クリスの強い推薦で特別に受験できることになったんだ。まあ、いい思い出になるといいね」
ステファン先生は、そっけなく冷たい態度だった。
「先生は君の経歴を見て、あまり良いイメージを持っていないんだ」
クリスはそっとつぶやいてきた。
それはそうだ。
一度魔法をあきらめた者が、のこのこと超一流魔法大学の特待生試験を受けようとしているのだから。
私なんかが来るところじゃなかったんだ。
多くの聴衆を前にして、私の足はどうしようもなく震えだしてしまった。
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