第6話 クリスの告白

「今からそのカラクリを説明するよ」

 クリスはまじまじとした顔でそう言ったのだった。


「……」


「実は、あの時、俺はあるスキルを使っていただけなんだ」


「あるスキル?」


「そう、そのスキルというのは『コピー』だよ」


「え?」


「そうなんだ。俺はあの時、アナスタシアをコピーしていただけなんだ」


「コピーしていただけだなんて。でもクリスは私より……」


「そう、君より俺はたくさんの葉と花を咲かせた。本来ならコピーはあくまでコピー。本家の劣化版でしかないはずだ」


 そうだ、コピーが本家を上回るはずがない。

 私をコピーして、私よりたくさんの葉と花を咲かせるなんて無理なはず。


「あの時俺は、スキル『コピー』を使って、アナスタシアのコピーになった。そしてバレないように赤い魔法陣を張って、君と同じ呪文を使って白魔法を枝にかけただけだ」


「じゃあ、どうして私よりたくさんの葉と花を咲かせたの?」


「そこだよ。コピーの俺があそこまでできたんだ。本家の君は、本当はもっとできたはずなんだ。つまり君は、自分の力を出し切れていなかったというわけさ」


「私は力を出し切れていなかった……」


「そのことを知った時、俺は初めて他人の才能に嫉妬した。アナスタシアという天才にね」


「私に嫉妬した……」


 にわかには信じられない言葉だった。

 越えられない壁だと感じていた才能の塊であるクリスが、私の才能を認めていただけではなく、嫉妬していたなんて。


「だから、アナスタシアが魔法高等学校をやめた時、正直どれだけショックだったか。俺が認めた天才が魔法をあきらめたと聞いた時、なんとしてでも連れ戻さなければと思ったものだよ」


「……」


「でも、俺には勇気がなかったんだ。説得しようと君の家の前まで行ったことがあるけど、そこから先の一歩を進めることができなくて、話もせずに帰ってしまったこともある」


「ありがとう。ウソでもそう言ってもらえると、魔法に熱中していた自分を否定せずにすむわ」


「ウソなんかじゃないよ」

 クリスは真面目な顔をして言った。

「俺には鑑定眼がある。今でもわかるよ。君の才能が、体中からにじみ出ている才能が行き場を失ってもがいている姿が目に映る」


 クリスが真剣になって私のことを話している。

 そのことが嬉しかった。

 婚約破棄されて、他人と自分を恨んでいた私に、自信を持たせるような言葉を浴びせかけてくれている。大好きだった魔法、一生懸命に学んだ学生時代、そんな私の過去の姿が頭によみがえってくる。


「だから、カサ魔法大学の特待生試験を受けてみないか? アナスタシアならできるよ。今回の募集は、白魔道師の聖女候補をさがしているんだ。間違いない、君は聖女になれる器だよ」


 聖女と言えば白魔道師界の頂点に位置する存在である。クリスの口からあまりに突拍子もない言葉が出てくるので、私はただただ目を丸くしてその場に立ち尽くすしかなかった。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私はもう魔法をあきらめてしまった身。何もかも錆びついてしまっているわ」


「試験まではまだ一ヶ月ある。それまでに取り戻せばいいさ。俺も協力するよ。必ず合格できるように、俺も協力する」

 そう言ってクリスは右手を私の前に差し出してきた。


 何なのこの手は?

 私はそう思いながらも、自然と自分の手がクリスに向かうのを止められなかった。

 そして、私たちはその場でしっかりと握手をしたのだった。ミカエルとは違い、指の長い繊細そうな手だった。

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