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 恋などしたことが無いから分からなかった。こんなに真剣に考えて、ストーカーと呼ばれて、標的なのに殺さなかった。いや、殺せなかった。最初の殺せないとは違う。僕は彼女を殺したくないのだ。

 それであれば、簡単だ。"彼女が殺されなければならない理由"を見つけ、排斥しようと考えた。


 彼女は依頼主のような『国の人間』には手を出していない。では何故か。殺しすぎが理由か。僕は依頼主に電話をかけた。

「少女が標的となった理由を教えろ」

「危険人物だからだよ」

JKというのは存在が危険人物から遠いように感じてしまう。危険人物なJK、想像もつかないが世界のどこかにはいるかもしれない。

「分からないな。俺が分かるように」

「そのままの意味さ」

 それ以上の回答は貰えないだろうと諦め、電話を切った。

 例のキャンディーを咥えながら、そのまま本屋に向かい、外国人作家の棚からいくつか本を取り出し、買った。今日はとても読書に適した日で、程よい明るさが、紙に触れる心地よさとゆったりとした時間にふとした幸せを感じさせてくれた。久しぶりに時間を忘れて本を読んだ。

 僕は寝る前にオー・ヘンリーの『The Green Door』を読んだ。和訳であるが、この物語の「運命」という言葉に何処か、引っ掛かった。 だが、僕にはそれが分からなかった。分かっていたが考えたくなかったというのが正しいかもしれない。僕は部屋の電気を消し、ゆっくり瞼を下ろした。



 物語というものには必ず終わりがある。それはある場合、突然訪れる。「死」と同じだ。このまま少女とゆっくりとした生活を続ける方法もどこかにはあったかもしれない。だが僕は、結論を急がなかった。それ故に起こったのが、これからの結果と言えるだろう。



 僕が休日だということに気が付いたのは、目が覚めて少ししてからだった。僕は朝食を済ませ、テレビを見ているとチャイムが鳴った。次の瞬間ドアが開いた。少女は靴を脱ぎながら言った。

「お邪魔します」

「よくきたな」

 僕は先を越されたなと思いながらそう言った。少女は僕の部屋に勝手に入り、大量の本に驚いていた。二人で並んでソファでテレビを見ていると、遊園地のCMを見た少女が、「あれ、行きましょう」と言った。遊園地になど行ったことのない僕は戸惑ったが承諾した。 一日くらい、僕も楽しんでも良いだろう。

 入場券を購入した後、遊園地に入ると、少女は僕の手を握った。「これじゃ仲の良い兄弟だ」僕がそう言うと、少女は強引に腕を組んだ。僕の腕に触れた少女の身体は心地よい温かさだった。僕はずっとこのままでいたいと思った。 ぐるぐると回るメリーゴーラウンドに乗っているときも、高所から一気に下るジェットコースターに乗っているときも僕は少女の顔を見ていた。よくよく見れば、少女は小柄で幼い顔立ちだった。それでいて、触れれば壊れてしまいそうな儚さと美しさを持っていた。

「照れるけどやめないでください」と少女が言ったので僕は「できる限り」と言った。

 特筆すべき事もなく、簡潔にまとめられてしまう一日だったが、少女と過ごしたこの日は僕にとって人生で最も楽しかった日だった。 人生で初めて一日の長さが定められたこと憎んだ日だった。

「観覧車、乗りましょう」

 少女はとてもゆっくり、そう言った。

「これが最後だな」

 自然とそう口から漏れていた。少女は何か言いたげだったが、結局ゴンドラに乗り込むまでは何も言わなかった。

 ゴンドラが上がり、地面が遠くなっていった。少女は、「今なら殺せますよ、殺し屋さん」と 言って僕の肩の上に顔を乗せた。僕は「君も殺し屋だろう」と言った。少女は「わー、きれいー」と言いながらカメラを取り出した。「フィルムカメラか…随分古いのを使っているんだな」 僕は言った。

「これも、あなたがくれたものなんですよ」

「それも?」

「やっぱり、思い出せたわけではないんですね」

 少女は少し残念そうに、それでもどこか嬉しそうに僕の顔をファインダー越しに見ながらそう言った。

「私の話をしましょうか」

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