02 本来の未来を思い出す
どうやら熱があったらしく寝込んだ。
やっと考えられるようになったのは数日後、それまでにこの世界の事がわかってきた。
この世界はテレビも無い、電気も無い、ネットも無い、でも幸いな事に私には仕事もない。
以前の私の名前など細かい所は覚えてないけど、仕事はしていた。
今の私の名は。
エルン・カリュラーヌ、十六歳。
数年前に地方で金山を発見したのがパパのマイト・カミュラーヌ。
そのパパの一人娘で、金と権力を使い我侭し放題で生きてきた。
自由が欲しいとリュートに着いて王立の学園へ通ったのが数日前。
何も出来ない我侭な私は、手っ取り早く卒業できそうな錬金科を選んだ。
手っ取り早くというのは賄賂が効きそうだったから。
同じく田舎から出てきて錬金術師を目指しながら学園に通うナナを徹底的に虐めぬき。
彼女が卒業する三年後には、どのルートでも私は死ぬか一家まとめて不幸になっている。
例えば、賢者の石END。
ナナが苦難の末、憧れの人が作った賢者の石を作り出す。
その前日に、私は金で雇った泥棒でその石を盗み出した。
で、彼女ナナが提出する前に発表するんだけど、賢者の石の力を悪いほうへと使い町中にゾンビを作り出す。
それを解決するのがナナという終わり。
その罪で私は死刑が確定している。
鍛冶師END。
錬金術式を混ぜた武具を作る事に決めたナナ。
その決断は、魔物に殺された級友のためでもあった。
その級友が私だ。
道具屋END。
道具屋の娘とナナは道具屋を営む。
その娘の手には相手を殺す無味無臭の液体ビン。
ナナの過去を知ったナナ大好き娘は、ナナに黙って夜の散歩へ行きました。
言葉では出てないけど、そのビンの中身をおいしそうに飲む私の姿が一枚絵で描かれていた。
リュートEND。
まぁこれは、溺れた時に思い出したけど。
三年も経つ前に私殺されるし。
その他色々、どれも不幸になるのが多かった。
「いやいやいやいや。悪役令嬢っていうの? あれってもっと小さい時に記憶がもどるもんよね! 私もう学園に入っているんだけど!」
お姉ちゃん思わず叫ぶよ!
だってもう『臭い女が、私のリュートへ近づかないでくださいまし』と鼻を摘んで宣戦布告し終わってるよ。
リュートとナナが廊下でぶつかり、足を挫いたナナをリュートが手当てしてたイベント終わってるよっ!
ついでに手当てさせるのに足を触らせているナナに『下賎の女は、貴族を見たら直ぐに股を開くんですね』まで言ってるし、ナナの足元に金貨を投げつけて『貧乏なんでしょう? 恵んであげますわ』と手当ての途中だというリュートの手を引っ張って、海へと行ったわよ。
コンコン。
部屋にノックの音が、聞こえる。
一人しか居ないメイドだ。
ぜーはーぜーはーと、息を整えてから返事をした。
「ど、どうぞ」
白いエプロンをつけたメイド姿の可愛らしい少女が入ってくる。
名前は知らない、というか聞いた事がない。
だって、今までは私が直ぐにクビにするから、覚える必要も無いと思っていたからだ。
今いるのは、はいってまだ数週間の子、年は私より小さく子供メイドだ。
あまりの可愛さにずーっと抱っこしておきたい。
命令すれば出来るかしら……、いや、私は変わったのよ命令はだめよね……。
「……さま……っ。リュート・ランバード様がお見えになりました、美しいおじょうさま」
いつの間にか呼ばれていた。
感情を出さないようにした声だけが聞こえる。
そうよね、変に私の気に触れたらクビだもんね。
「わ、わかったわ。応接室へ通して頂戴」
「かしこまりました、美しいおじょうさま」
「あ、あのっ!」
「なんでしょうか? 美しいおじょうさま」
この美しいお嬢様という語尾は、私が言うように命令した言葉である。
「その、美しいお嬢様ってのはもういいわ、ええっと……名前を教えてくれる?」
人間こうも絶望できる顔が出来るのか、と思うぐらいに泣きそうになるメイド。
ベッドの上で上半身を起こした私へと土下座をしてくる。
「申し訳ございません、美しいおじょうさま。何か気にさわることがあったでしょうか。
ここを追い出されますと、いっかろとうに迷うって母がっ。
どうか、どうが――」
ああ、そうね。
クビにすると思っているのよね。
「違うから」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「違うって言ってるでしょっ!」
「ひいっ」
やばい、声が大きかった。
「ど、怒鳴ってないから。おねーちゃん怒ってないですよー」
私は必死に猫なで声に切り替えた。
ここで切れても仕方が無いし、現状を、いや未来を少しでも明るくしたい。
そのためには下僕…………ちがうわね。
良い関係の人間が複数居たほうがいい。
どうも数日前までの性格ってのは、なかなかに抜けない。
結局、メイドを立たせるのに数十分かかった。
会いたくない婚約者だけど、会わないといけないし。
メイドの名前に関しては、その話は後でしましょうという事で落ち着いた。
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