116.結婚式は聖樹の木の下で
美しい白絹のドレスは、体のラインを大胆に見せるマーメイドタイプ。胸元や袖と膝から下は銀の刺繍がびっしりだった。これは時間も手間も掛かったわね。刺繍の柄に合わせて、パールと金剛石が縫いとめてある。とても綺麗だわ。動くとキラキラするの。
ヴェールはお母様が編んでくださった繊細なレースよ。数種類の花が散りばめられた美しいレースにも、パールや金剛石が飾られていた。こんなにたくさんの宝石を集めるのは大変だったんじゃ……もしかして?
「この真珠と金剛石は……」
「聖獣様方がご提供くださいましたの」
「……痛くて泣いたんじゃなければいいわ」
色が透き通っているから、痛みで泣いたんじゃないわね。感涙かしら? 婚約破棄と国外追放、あとは爵位剥奪だったかしら? オリファント王国と訣別した後の再会で、彼と彼女は大粒の涙を零した。その時の色に匹敵するから、嬉し涙だと思う。
いくらなんでも、私の結婚式のドレスに嬉し涙以外の宝石を使わないわよね。
髪留めに使うピンにも、小さな金剛石の粉が吹き付けられている。結い上げた髪をピンで留めて、ヴェールを被る。最後にラエルの聖樹から貰い受けた枝を飾った。
侍女が器用に冠風に編んでくれたの。この作業は私には無理ね。精々が枝を髪に差すくらいしか思いつかないわ。円形に編み込まれた枝は若い部分だったみたい。蔦のように細く長かった。所々に紫や赤の実を付けてるのが素敵ね。
聖樹の冠を乗せた私の化粧も終わり、全体にピンクで纏めた頬紅や唇を確認する。普段はキツくてしっかり者な感じなのに、今日は可憐な少女みたい。自画自賛しながら見惚れていると、お飾りの首飾りが肌の上に重ねられた。
当初に予定してたドレスと違う雰囲気だけど、とても気に入ったわ。愛らしい感じに仕上げようとしたお母様には悪いけど、私はこちらの方が似合うと思うの。立ち上がって、式場として急遽用意された聖樹の大木の下へ移動する。離宮と呼ばれる私の屋敷は、玄関を一歩出たら聖樹の幹が見えるのよ。
本宮にいるお母様達は、もう少し時間を稼いでから来てもらうわ。ふわりと現れたラエルは、銀色の刺繍が施されたローブのような姿だった。下に騎士服に似た礼服を纏っている。でもローブの方がラエルらしいわね。
『父君と兄君はもう街に到着した。ついでだから、希望者を募ったら全員帰ってきちゃったけどね。式が終わったら戻しておくよ』
簡単そうに言うけど、普通は大変なことよ? くすくす笑う私の耳に、フィリップ様の声が届いた。
「グレイス様、ご結婚おめでとうございます。こうしてお祝い出来て嬉しいです」
「ありがとう」
微笑んで頷く。エインズワースに神はいない。だけど聖樹様が神と同じ。ならば神前式ではなく、聖樹の下で結婚式を挙げるのが正しいわ。私は聖樹ラファエルの妻にして、巫女だもの。
集まってくる街の人達の先頭で、ミカがアビーと手を繋いでいる。後ろに荷車があるから、きっと宴用の食料品やお酒ね。アマンダも運んでくれるけど、たくさんあっても困らないわ。騒がしくなる離宮の前で、私はラエルと手を繋ぐ。
「愛しているわ、ラエル」
『知ってる。それと僕の方が君を愛してるからね……グレイス、僕の最愛の人』
人の目を盗んでヴェール越しに、触れるだけのキスをした。
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