115.最善の策が人妻でした

 使用人を交えた会議の結果、答えと思しき結論を導き出した。


 ――お祖父様は、お母様が帰って来ないことを理解している。だけどお母様に似た孫娘の私を手許に置きたいから、ユリシーズ叔父様と結婚させようと考えた。過去の誓いを破棄するため、叔父様は監禁された上で今回の神父同伴となった。ちなみに皇帝陛下であるチャールズ伯父様はどちらでもいいと考えてそう。


 この内容をよくよく精査した結果、味方につけるべきは、伯父である皇帝陛下とユリシーズ叔父様ね。ユリシーズ叔父様がお祖父様の脅迫に屈せず、味方にしたチャールズ伯父様が彼を支持したら……状況をひっくり返せるわ!


 ぐっと拳を握った私に、ジェシカは予想外の提案をしてきた。


「もっと確実な方法があります」


「何?」


「お嬢様がいますぐ、聖樹様と成婚なさればいいのです」


 既婚者になれ、と? お父様やお兄様、呼びたい人がまだ隣の大陸にいるのに。わかるわ、それが最善策よね。でも皆が揃ってない結婚式なんて嫌。そう呟いた。


 女の子だもの、皆に祝ってもらえる花嫁になるのが夢だった。急いで式を挙げる必要があっても、やっぱり皆が揃う結婚式がいいわ。話を締めくくった私に、ラエルが思わぬ言葉を放った。


『全員揃えばいいだけ? 簡単だよ。1時間もあれば、指定された人を集めて運べる』


「あっ! ラエルは人を転移魔法で移動できるのよね!」


 幸いにして、結婚式の準備はかなり整っている。衣装もお飾りも揃ったし、後は飾り付けや料理くらい。


「アマンダ様に伝令!」


「僕が行って連れてくる」


 シリルが窓から飛び出しました。あの子、連れてくるって言ったけど……まさか背中に乗せてくれるのかしら。


 お母様はラシーン教の神父に気づかれないよう、引き付ける役をお願いした。もちろんユリシーズ叔父様にも伝えるわ。我が家の侍女は優秀なんだから。お茶を注いだり、お菓子を補充するために近付いた。その際に連絡を伝えていく。


 ユリシーズ叔父様の手が、テーブルの下でぐっと握られる。完璧ね。屋敷から尻尾のはみ出た白猫ノエルは、そのまま神父を威嚇する役をお願いした。これは聖樹と聖獣の念話で終わり。


 侍女や執事が忙しく動き回る。街への伝令は騎士が受け持ってくれた。衛兵も駆り出して、街の祭りの準備も進めるみたい。忙しくしてしまって申し訳ないわ。


『グレイスとラファエルの結婚式だもの、手伝うわ』


 ぽんと予告なしに部屋に現れたのは、聖樹ミカだ。妹に近づいたラエルが、何か書かれたリストを渡して頼む。嬉そうに彼女は転移で出ていった。聖樹様のお力って、凄いわ……改めて感心しちゃった。


 ばたばた動く人の手伝いをしようとするのに、全員が同じ言葉で私を止めるの。


「お嬢様は綺麗な花嫁になるため、お風呂で磨いて着替えの準備をなさってください!!」


 私達の結婚式を早めるために動いてくれてるのに、お風呂でのんびりなんて悪いわ。そう思ったのも束の間。侍女達の手でごりごりに磨かれてしまった。これはこれで、戦うより体力が消耗するわ。ぐったりしながら軽食を口に突っ込まれ、食べる間に髪を乾かして整える。


 下手な戦場より疲れるし、大変だった。でもその甲斐があって、鏡の中には美しい花嫁が映っている。微笑んで、くるりと回った。慌ただしくなったけど、今日、私はラエルの花嫁になるわ!

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