111.もふもふになるラエルが想像出来ないわ
エリスは蛇だから、空を飛べないわよね。そう思っていたので、荷馬車を用意したのですが……まさかの飛べる聖獣でした。
「エリスが飛べると思わなかったわ」
「羽ついてるから飛ぶよ」
シリルがとんでもない理屈で返しますが、それを言うならあなたは羽がないのよ? 普通に飛んでるけど。
「僕は飛んでるんじゃなくて、空を駆けてるの」
力説されても人間には違いが分からないわ。下から見たら、上空の鳥もシリルも蛇のエリスも全部飛んでるじゃない。ひらりと降りてきたシリルは、私が背中に乗らないのが不満だと訴えた。
「僕の背ならひとっ飛びなのに」
「そうね、でも馬を連れ帰らないと行けないの」
私が連れてきたんだもの、ちゃんと連れ帰ってあげなくちゃね。この馬は私が乗馬を習い始めた頃、お父様に贈っていただいた馬だった。シリルも分かってるから、強くは言わない。拗ねてるって伝えたかったのよね。
手招きして膝に乗せた。聖獣の狐が乗っても、愛馬は気にせず歩き続ける。小型化したシリルを撫でる私の腰に腕を回すラエルが笑った。
『こんなに聖獣が懐くのは、グレイスが初めてだね。僕が知る限り、聖獣達はもっと距離を置いて接していた』
「そうなの? 最初っからこうよね」
シリルの背中を撫でて首を傾げる。子どもの頃に出会って以来、ずっと友人や家族のように接してきた。それが当たり前だと思ったのに、違うの? 過去の巫女はどう過ごしてきたのかしら。聖獣や聖樹を敬って、神様のように祀るだけ?
「僕らはグレイスが大好きだよ。一緒にいたいだけ。打算はなくて、こうやって近くで過ごしたいんだ。居心地がいい」
うっとりと身を任せる狐をもふって、幸せを堪能する。ああ、馬上じゃなければ腹に顔を埋めて吸いたい。尻尾でもいいわ。
『もふる? 僕も毛だらけになった方がいいかな』
嫉妬するラエルがもふれるようになったら……嬉しいけど困るわね。何に困るかは想像も言及もしないで。心の中で呟きながら、海の上を渡りきる。本当に近いけど、この根はいつまで浮いてるのかしら。
『気に入ったなら、しばらく残すよ。100年くらい? その間に横へ橋を作ったらいいんじゃないかな』
軽く100年単位の話をされて、くらりとする。聖樹のラエルにとって、数日感覚かしら。この人の妻になって、一緒に生きていく。その長くて幸せな未来を思い、私は馬に揺られた。
早く結婚式で皆にラエルを自慢したいわ。こんなにカッコよくて素敵な夫、他にいないもの。ぎゅっと後ろから抱き付くラエルの頬が熱い気がして、赤いのか気になる。でも抱き締める力が強くて、振り返らせてもらえなかった。
残念……照れるラエルも見たかったのにな。
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