105.もふもふの毛が足りないわ

 白い狐を抱いて、翼ある狼の背に跨る。そんな私はラエルに後ろから腰を抱かれ、肩にパールを乗せていた。足りないのは白猫ノエルだけね。聖獣パレードと呼ばれ、周囲から拍手が送られたけど……うちの領民は本当にノリが軽いんだから。


「新しい聖獣達は元気? ミカに早く会わせてあげたいわ」


 浮かれる私をよそに、聖獣達は顔を見合わせて何か物言いたげ。どうしたのかしら。聖獣が封印されていたという塔に向かいながら、もしかしてケガをしていたのかも? と青ざめた。ひどいケガだったら、ミカがいないと治らないかしら。同じ聖樹同士、ラエルが治せたらいいんだけど。


「少しもふもふ要素が薄いんだけど」


 困ったようにシリルが口を開く。もふもふ要素が薄い? ストレスで脱毛症になったとか?


「そうなの、毛が増えるといいわね」


「……難しいと思うわ」


 フィリスは否定するように呟いた。そんなに毛が抜けちゃったの? 聖樹のミカやラエルが一緒にいたら治りそうだけど。


 聖獣には高い自己治癒能力があり、主である聖樹の能力に左右される。ミカの能力が低下している今、聖獣達の力も制限されてる可能性があるわ。


「僕はどちらかといえば好きだな」


 メイナード兄様はお気に召したのね。カーティス兄様とお父様は顔を見合わせ「あれはもふもふではない」と指摘した。もふもふじゃない聖獣を見たことがないから分からないけど、毛の量で差別はしないわ。これでも聖樹ラファエルの巫女ですからね。


 緊張しながら向かった先に、大蛇がいた。それも石畳にゆらゆらと伸びて、日向ぼっこの真っ最中ね。


「あの蛇、なに?」


 もしかしたら封印が顕現した形かしら。封印は呪いみたいな感じだから、日向ぼっこはしないか。


「聖獣だよ」


 抱っこしたシリルの言葉に首を傾げ、眉を寄せる。毛皮がない? 聖獣なのに? 聖獣は聖なる獣で、蛇って獣に分類できたかしら。


「初めてお目にかかります、ミカエル様第一の聖獣エリスです」


 聖樹ラエルに向かって挨拶をする蛇は、くるりとトグロを巻いた。フィリスの背を降りて、ラエルと手を繋いで近づく。乗馬服姿だけど、足を引いて聖獣エリスに礼を尽くした。


「聖樹ラファエルの巫女、グレイスと申します」


「僕のお嫁さんだよ」


 ラエルが付け足したことで、エリスは目を輝かせてびたんと尻尾を揺らした。近くで見たら、鱗の色も白くて綺麗だし、紅瞳が宝石みたい。


「綺麗な聖獣様ね」


「エリスと呼んで、グレイス様と呼ぶわ。うちのミー様がお世話になったと聞いたの」


 聖獣同士の会話で、ミカの近状を伝えていたらしい。好意的な聖獣の態度に、私は嬉しくなった。手が触れる距離まで近づいて、ぎゅっと抱き締める。


「無事でよかったです」


「ありがとう。あら……」


 抱き締めた鱗の先で、もふもふする物に気づいた。手で撫でて、優しく捕まえたのは……羽?


「やっぱり聖獣はもふもふだわ!」


 興奮して同意を求める私に、手を離されたラエルが苦笑いする。頷く彼の足元へ、エリスが何かを吐き出した。ころんと転がる白い塊……卵?


「これがミー様の第二の聖獣ですわ」


 つるんとした表面を見る限り、毛皮はなさそうね。生まれた子は毛皮があると嬉しいんだけど。

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