97.聖樹を魔王と呼称する大陸でした

「他にも聖獣がいるらしいよ」


「え? そうなの? 聞いてないわ」


「でも第一の眷属だって言うからさ、第二がいると思う」


「……ミカ様に確認する?」


 ひそひそと白狐シリルと、翼ある白狼フィリスが相談を始める。ちなみに本人達は小声のつもりだが、部屋が石造りなこともあり丸聞こえだった。ついでに言うなら、円筒状の建物は声が回り込む。


「すみません」


 奔放な兄と、輪をかけて奔放な妹に挟まれた苦労性の次男は、気を遣って謝っていた。


『いいのよ、気にしないで。私も封印された時に殴られたせいか、ちょっと記憶が曖昧なのよね。ミー様にケガはないのよね? 今は元気にお過ごしでしょう?』


 心配が溢れ出す羽蛇エリスに、メイナードは頷いた。直接は接触が少ないが、グレイスから話は聞いている。


「エインズワースに来たばかりの時は弱っておられましたが、今はお元気です。アビーという女性の雑貨屋で暮らしていますよ。彼女は気さくで優しい女性でして、普通の人間のような生活を楽しんでるそうです」


 聖樹への接し方がこの大陸と違うと聞いて、街の様子などを話すたびに聖獣エリスは驚いた声を上げた。


「こっちの大陸はそんなに酷いんですか」


『聖樹は魔王扱いで、毛嫌いされてるの。聖樹のある森はすべての生命を育むから、魔獣も暮らしているでしょう? それで魔獣を生み出して人間に嗾けてると思われたらしいわ。私も魔獣呼ばわりされたし……レディに失礼よね』


「あ、女性だったんですね」


『…………何だと思ってたの?』


 にっこり笑ってメイナードは言及を避ける。まずい、余計な一言が多かった。話を逸らすか、素直に謝罪するか。迷って、前者を選んだ。人生、逃げるが勝ちだ。


「エインズワースでは、ミカ様も普通の子どもみたいにアビーの店の手伝いをしたり、悪戯をしたら叱られたり。それが嬉しいみたいで。先日はお菓子を焼いて持って来てくれました」


『ぐすっ……今は幸せなのね。役立たずな聖獣だけど、これからはその幸せを守らせて欲しいわ』


「エリス様は、ミカ様が大好きなんですね」


 ぽろぽろと涙を流す自称レディの聖獣へハンカチを差し出すが、手がないので代わりに拭いた。メイナードの紳士的な行動が嬉しかったのか、エリスはびたんと尻尾で床を叩く。


「ところで、二番目の聖獣様のこと思い出しましたか?」


 メイナードの言葉に、羽蛇はくるりとトグロを巻いた。


『たぶん、同じ塔にいるわ。そうよ、あの子まだ卵だったんだから』


「「「卵!?」」」


 聖獣って、成獣の姿で生まれるわけじゃないのか? メイナードの疑問と、フィリスやシリルの疑問は違っていた。


 ……卵で生まれたなら、もふもふじゃない!? グレイスになんて説明しよう。もふもふを保護してきてと頼まれた二匹は、顔を見合わせて肩を落とした。

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