83.私達の将来みたいで照れるわ
今夜は一緒に眠りたい。小さな声で強請るミカに、私もラエルもすぐ頷いた。明日の朝、もう一度この市場へミカを送ってくる話を決める。苗木どころか種の時に分かたれた道、ほとんど交流できなかった兄と過ごしたい。その願いは私も理解できたから。
王家に嫁ぐと決まって王都に行く前日、すごく悲しかった。大切な聖獣や聖樹と別れて、聖霊がいない穢れた土地に入る。そこで一生過ごさなくてはならない絶望に、心がひび割れた。
ミカも同じだと思うのよ。双子のように生まれた種子が、それぞれの大陸に蒔かれた。それが世界を作った創造主の御意思だとしても、もう関係ないわ。己で決断して動けるんだもの。自由に生きればいい。
ミカの本体である根はまだ隣の大陸にあるけれど、いつかこちらに根付いてくれたらいいわ。そう口にしたら、目を見開いた後でミカは小さく頷いた。
アビーに手を振って両手を差し出す。当たり前のように待っている手を、私とラエルで繋いだ。影ぼうしが長く伸びる道を歩き、屋敷に戻ったのは夕刻だった。
並んで食事をして、私とミカは一緒に風呂に入る。不思議そうにしながら、お湯に驚いていた。湯船に浸かると頬が緩み、それから私の胸を無造作に掴んだ。
「ミ、ミ、ミ、ミカちゃん?」
「これ、何に使うの」
「……えっと、その。赤ちゃんが出来たら、お乳を飲ませるのよ」
夫が揉んだりする話は要らないわよね。まだ早いと思うし。誤魔化して、一般的な話で終わらせる。ふーんと納得したミカは、自分のぺたんとした胸を撫でた。
「私は赤ちゃんできないね」
「これからよ。まだ体が成長できてないだけで、これから大きくなると思うわ。私も昔はぺったんこだったし」
言いながら、ちょっと自分で凹む。そうなのよ、あまりに平らで一時期真剣に悩んだわ。あの頃の葛藤や努力を、今、ミカも通過しようとしてる。そう考えると、歳の離れた妹が愛おしくなった。
「お風呂に入った時、優しく揉むと大きくなると聞いて……こうよ、ほら。私も努力したんだから」
やってみせると、同じように真似するミカの表情が真剣そのもの。手の動きを覚えるように、平らな胸を何度か揉み撫でた。
「私が大きくなったんだから、ミカも立派になるわ」
「うん……その、ありが……と」
照れながらお礼を言う姿が可愛くて、ぎゅっと抱き締めた。おずおずと背に手を回し、胸に顔を埋めながら呟く。
「やっぱり狡いわ」
「そう? 私はミカに追い抜かれないか心配よ」
戯けてそう返した。これだけの美少女で、あの超絶美形ラエルの妹なんだもの。胸が膨らんできたら、絶対に勝てないわ。断言してもいい。嫌な確証を抱きながら、風呂を出て寝室へ移動する。すでに待っていたラエルと3人で寝るの。
本当はダメなんだけど、今日だけいいわよね? ミカがいるからと家族や侍女を説得した私は、眠るまでミカに子守歌を聞かせた。物語になった歌は、結末まで聞く前に眠ってしまう。懐かしさに頬を緩め、ミカを寝かしつけた。
顔を上げると、優しい笑みを浮かべて私達を見つめるラエルがいる。子どもが出来たら、こんな感じかしら。ラエルに似た可愛い子を間に挟んで……そこまで考えて真っ赤になる。やだ、先走っちゃった。
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