84.貪欲だからこそ、残酷なんだ
明け方、伸ばし続けた根が交錯した。こちらへ助けを求めるように伸びた妹の根を絡めて、己のいる大陸へ引き寄せる。それと同時に、さらに先へ伸ばした。
妹ミカはずっと孤独だった。それがすべて人間の所為とは言わない。だが、焼き払われた彼女の痛みは本物で、現実だった。聖霊の気配が薄い大地を逃げる妹に、聖獣が寄り添っていなかった。この事実が彼女の話を裏付ける。
ぱちりと目を開けて涙ぐむミカを引き寄せ、後ろで眠る愛しい人に微笑んだ。僕達は本来、とても貪欲な種族だ。大陸を支配して、上に棲む生き物を選別する。気に入らない文明は滅ぼし、愛する者やその血族を保護することもあった。
古代文明と呼ばれる傲慢な種族を滅ぼし、生き延びて新たな文明を生み出した者達を見守った。大量に使い過ぎた力を蓄えるため、僕は一時的に休眠状態になったけれど。今回はもっと上手にやるさ。
にやりと笑ってミカエルの銀髪を撫でる。緑の目が安心したように和らいだ。この子は僕の分身と同じ、こちらの大陸で癒しながら成長すればいい。その間に僕が向こうを
古代文明を滅ぼしたときは、根で大地を反転させた。あの技を使うとまた長い眠りが待っている。それくらいなら、そうだね……人間の力を利用しようか。何しろ勝手に攻め込んでくる無粋な連中だ。
「もう、起きたの? ……あふっ、まだ早いわ」
僕にしがみついたミカが腕の中から消えたと文句を言いながら、グレイスが抱き着いた。ミカを間に挟む形で抱き合い、彼女はほわりと笑って目を閉じる。まだ半分寝ているみたいだね。
朝になったら、グレイスの両親に話をしようか。この隣の大陸で起きた出来事と、封じられた聖獣……殺されかけた聖樹の物語を。それでも飽き足らず、他国の豊かさに手を伸ばす愚かな隣人の正体を。
グレイスを大切にする彼らが、どう判断して行動するか。人は僕らと並ぶ貪欲さをもつ生き物だから、その考えや行動は理解しやすい。一度娘を奪われる痛みを知った家族は、グレイスを守るために立ち上がるだろう。
戦いで傷つける気はないけれど……そうだね。襲ってくるまで待つ理由もない。僕がいれば守り切ることも可能だ。力を蓄えた今なら、上手に害虫を駆除出来る。
僕からグレイスを奪おうとした王国に、薔薇の種を仕込んでいるように。あの大陸にも美しい花を咲かせてやろう。苗床はいくらでもあるのだから。駆除すれば害虫だって肥料だった。
グレイスにはどの花が似合うだろう。愛しい女性の髪に触れた僕の顔が緩む。それを見て、ミカがぼそっと呟いた。
『大きい白い花がいいわ』
『白は似合うだろうね、僕は赤でもいいと思ったけど』
こそこそと言葉を交わし、白い花をいくつか候補に選んだ。この中から、グレイスの好きな花を咲かせるとしよう。隣の大陸すべて、見える限り一面に……ね。
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