73.出陣とお見送りに寒風が吹く
オリファント王国へ帰る王太后様と国王陛下をお見送りする。この役目は私とお母様が担いました。というのも、お父様やお兄様は出陣なさったからです。
パトリシア様やフィリップ様と食事をご一緒した後、準備のできた軍を率いて先に立ちました。出陣式はシンプルに執り行い、民への混乱を抑える。お母様曰く、まだ戦争前の段階だからと。
こういう手腕はお見事です。私も見習わなければなりませんね。皇女として皇位継承権の上位におられたお母様は、外交も内政も苦手意識なくこなします。戦に関してはお父様に譲っていますが、実際のところ剣技はお世辞抜きにすごいとか。
我が家が貴族にしては腕白に育てられた理由は、ここにあったようです。お兄様は小さい頃に森に迷い込み、魔獣に襲われて逃げ帰りました。命からがら戻った我が子に、お母様が「なぜ仕留めなかったの」と仰ったので、周囲が絶句した話は有名ですもの。
「すべてが片付いたら、必ずお迎えに上がりますわ」
こちらに来てくださいねとお願いしても、きっと遠慮なさるから。こちらから出向いて連れ去ります。今回の拉致のように無理やり、あなた方の意思を確認なんてしません。だって、もう結論は出たんですもの。満面の笑みを浮かべる私の強い言葉に、お二人は顔を見合わせました。
「こういうところはグレイスだよね。じゃあ、確かに預かるよ」
お帰りになる二人を聖樹ラエルに転移してもらおうと考えたのですが、領地の検分をしながら帰るそうです。護衛を兼ねて、アマンダが同行を申し出てくれました。
彼女はまだオリファントの王国に残る人々のために、食糧や日用品を販売しています。ほぼ利益がないのに、欠かさず月に2回足を運んでいました。その定期便に、王族のお二人が乗る形でした。馬車はうちから提供しますね。乗り心地は保証しますわ。
「アマンダ、頼んだわね」
「安心してよ、さっき聖獣のパール様に祝福をもらったから、ばっちりだ」
まあ、パールったらいつの間に? 得意げに肩に舞い降りた白いオウムを撫でると、頬擦りされました。
「だってアマンダはブラッシングしてくれるし。こっちの二人はグレイスのお客様でしょ」
ツンとした態度でパールが手柄を自慢してくる。可愛いわ、こういうところ、ノエルに似てるわね。聖獣は何かすると、すぐ報告してくるわ。村の幼い子供みたい。くすくす笑いながら、私はお二人に手を振る。遠ざかる馬車を見送り、お母様とラエルとお茶を飲むことにした。
すこし寒くなってきたけど、お父様達は大丈夫かしら。
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