67.ささやかで贅沢なお願い
2年ぶりにお会いして、朝食をご一緒する間にあれこれお伺いしました。オリファント王国を畳むために、前国王陛下や元第一王子殿下の後始末を始めたのだとか。
「王家を解散なさる、のでしょうか」
そんな簡単な話ではないと思います。我がエインズワース領と帝国領に挟まれた国なので、多少はお力添え出来そうですが。そう申し出ると、王太后様は微笑んで頷きました。
「申し訳ないけれど、我が国民の受け入れをお願いするわ。領地は帝国と分けていただくことになるわね」
「僕の代できっちり終わらせます」
まだお若い国王フィリップ陛下が、己の生まれた王国を負債と考えているのは、気の毒なことです。我がエインズワース家が独立したことが引き金になったのでしょう。表情が沈んだ私に、フィリップ様はにっこりと笑います。行儀悪く肘をついて、下から顔を覗き込むような体勢になりました。
「僕はね、わくわくしてる。ずっと王位に縛り付けられる運命だったのに、逃げる道が出来たんだから」
自分のために努力している。他人から見て、国が滅びて哀れに見えようと、とても楽しいんだ。笑顔で言い切ったフィリップ様に、悲壮感はありませんでした。隣で頷く王太后様も同様です。
「後で、その……じぃに会わせてくれませんか?」
もじもじしながら頼み事を切り出され、もちろんと請け負いました。お父様は現在、お母様の補佐です。書類処理や揉め事の解決はお母様が行っていました。時間の調整は可能です。侍女に伝えてくれるよう頼もうとしたら、その前にノエルがのっそりと立ち上がりました。
「僕が行ってくるぅ」
食後のひと運動とばかり、窓からするりと出ていきました。屋敷に出入りする者は聖獣だと知っていますが、野良猫のようですわ。お母様のお膝で昼寝をするつもりでしょうけれど。
「……ねえ、グレイス。ノエル戻ってくるかしら」
心配そうなパールが追いかけるが、やはり窓から出入りする。普段からそうですが、お客様がいるときは扉から出入りするようお願いした方がいいでしょうか。お行儀が悪く見えますわ。
『聖獣にそういった感覚はないからね。教えても覚えないと思うよ』
「僕は覚えました!」
シリルが得意げに狐尻尾をピンと伸ばして胸を張る。偉いわと褒めたところに、王太后様が席を立って近づきました。
「私もお願いがあるの……その、とても言いにくいんですけれど」
グレイスが待つ姿勢を見せると、頬を赤く染めました。それから遠慮がちに小さな声で願いを口にします。
「そんなの! いつだって叶えられますわ。今日これからでも構いません」
本当に驚くほどささやかで、でも贅沢な願いでした。シリルやフィリスが協力してくれるみたいです。食後のお茶を終えてから、私達は屋敷の外にある聖樹の木陰に移動しました。
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