47.婿が決まったので独立宣言?
ラエルとお母様の間に座り、エイドリアンが注いだお茶に手を伸ばす。両手でカップを包むようにして小首を傾げた。
「あらあら、マナー違反よ」
「お母様とラエルだけなのよ。許して」
お父様やお兄様がいたら、絶対にしないわ。仕方ないわねと笑う母の向かいで、ラエルが私に優しい眼差しを向ける。なんだか擽ったいわ。愛してると自覚してしまったら、あの恋心を取り戻した今、ラエルが眩しくて仕方ないのよ。諦めようとした数年前の私はまだ幼かったのね。
今の私が同じ状況に陥ったら、まず王家を潰す方法をお父様達に持ちかけるわ。そうしたら、婚約なんて無効だもの。王家の要求を突っぱねたら戦になると思い込んでいたけれど、そんなこともないのよ。戦わないために外交があるんだもの。
「ラエルのお部屋は私の隣にしたの。いつでも会えるわ」
『それは素敵だね、君の伴侶としての扱いだと思っていいのかな?』
伴侶……はんりょ、伴侶? それって婚約者を通り越して、夫よね!? 一気に顔が赤くなった。首や手も赤くなったと思うわ。かっと血がのぼって、ふらりと後ろに倒れかかった。
「うわっ、聖樹様何をしたの! グレイス?」
シリルが大慌てで巨大化して私を支える。椅子ごと倒れるかと思ったから助かったわ。ぽんと彼の尻尾を叩いて、感謝を伝える。くるくると上空を回るパールが、シリルの頭に止まった。美しい声で奏でるのは、恋の歌だ。成就した恋に浮かれる乙女と、愛する女性を抱き締める青年の歌を高らかに歌い上げる。
「や、やめて。恥ずかしいわ、パール」
「いいじゃない。主様とグレイスが恋仲になったんだもの。国中に触れ回らなくちゃね」
捕まえようとした私の手を掻い潜り、彼女は空に舞い上がった。白いオウムが歌いながら街へ飛んでいく。なんてこと、あの子ったら
「ごめんなさい、ラエル」
『どうして謝るの? 僕の可愛いグレイス。君は聖樹の伴侶となる初めての巫女だよ。パールは間違えてないさ』
繰り返された「伴侶」という単語に、今度こそ感情が沸騰した。堪えきれずにシリルの背中に倒れ込み、慌てたエイドリアンが冷やしたタオルを要求する。用意しに走る侍女の足音が遠ざかり、お母様ののんびりした言葉が届いた。
「思ったより早く婿様が決まったわね。聖樹様の婿入りとなれば、明日にでも公国の独立宣言をしましょう。エイドリアン……今の家令はスティーブンだったわね。ごめんなさい。トリスタンとサイラスを呼んで」
オリファント王国で宰相を務めた分家テルフォードの当主サイラスと、騎士団長だったブレスコット家のトリスタンを呼ぶよう言いつける。普段はおっとりと笑みを浮かべて後ろに控える母だが、本来は皇帝の地位が狙える皇女として英才教育を受けた女性だ。その手腕は健在だった。
「宰相はサイラス、騎士団長はトリスタンに。あの人は全体を監督させるとして、カーティスやメイナードにも役職を与えなくてはいけないわ。カーティスも呼んでちょうだい」
ついでのように長男を呼び付ける母ジャスミンは、それはそれは楽しそうに口元に弧を描いた。
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