31.もふもふのために帰ってきたの

 お父様達、どの辺りまで行ったかしら。雨が降りそうな空を見上げながら、思いを馳せる。距離があるから向こうが降っているとは限らないけど、移動中に濡れませんように。雨自体は恵みの存在だから否定しない。


 ただ……濡れると、いくら丈夫なお父様でも体を冷やすわ。メイナード兄様は風邪を拗らせやすいから、気をつけて欲しいの。


「どうしたの? グレイス」


「雨が降りそうだから、お父様達の心配をしていたのよ。聖樹様のところへ明日伺うけれど、連絡してくれたのよね」


「パールが連絡してるよ」


 ごろんと寝転がる白狐シリルの美しい毛並みに誘われて、ついつい絨毯の上に座る。そのまま手を伸ばして抱き着いた。柔らかな絨毯以上にふかふかで、心地よいふわりとした手触りに頬が緩む。全力で撫でていると、白い毛皮が増えた。遠慮がちに隣に寝転ぶフィリスだ。


 自己主張が強いシリルやパールと違い、フィリスは相手を気遣いすぎて引いてしまう。狼なのに大人しいのよね。動物の狼と違い、翼があるからかしら。羽を畳んだ彼女はつぶらな瞳でこちらを見つめる。海より青いフィリスの瞳の願いに負けて、そちらに飛びついた。


 ぱしんとシリルの尻尾が床を叩く。ごめんなさい。でもシリルはもう撫でたわ。明日はフィリスに運んでもらう予定だから、魔力を馴染ませておきたいの。言い訳しながら、硬いオーバーコートの下にある柔らかな冬毛に手を突っ込んだ。これよ、この柔らかさ。猫とも違うのよね。


「今日は皆で寝ましょうね。ところでノエルは?」


「おやつもらってたわ」


 フィリスが笑いながら教えてくれた。なんでも野良猫に餌をやる料理番から、普通の猫のフリで砕けた焼き菓子をもらったんですって。我が家はもちろん、領内では動物を可愛がる家庭が多い。聖獣という目に見える形の加護があるため、人々の心が穏やかなのだと思う。


 森で動物を狩ることがあっても、必ずトドメを刺して苦しめないようにする。必要以上の狩りをしない。狩った獲物はすべて活用する。あとは子連れの動物に危害を加えない。これがルールだった。


 ナイジェルはすべて破ったわね。困った人だこと。首を横に振って考えを振り切った。明日は軽装で向かう。巫女の衣装は、祭典やイベント用だった。聖樹様は私が私であれば、それ以上の装いを求めたことがない。本質が重要なのだと仰っていた。


「明日はお気に入りのワンピースにしましょう」


 うふふ、楽しみだわ。久しぶりだし、聖樹様の大きなで一泊したいわね。今日のうちにお母様に相談しておきましょう。


 母のいる執務室へ向かいながら、私は手土産の確認をする。さきほど砕けた焼き菓子をノエルが食べていたと聞いたから、菓子の準備は終わったみたい。お気に入りの紅茶とカップも用意してもらわなくちゃね。


 部屋を出た私の後ろを、シリル、フィリスの順でついてくる。お母様の部屋に到着した頃、ノエルも合流した。明日のために、許可をもぎ取るわよ!

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