18.国外追放と爵位剥奪で建国します
宴会の支度を始める騎士やお兄様を見送り、私は一度自室に戻った。締め付けるドレスのまま逃げたので、ようやく一息つける。鍛えたお陰でコルセットが不要だからいいけど、これで締め上げてたら途中で落馬……じゃなくて、落狐してたわね。
当然のように後ろをついてくる小型化した聖獣達は、思い思いに部屋で寛ぎ始めた。私の部屋は、さながら動物園のようね。専用の止まり木で休むパールは美しい尾羽が自慢のオウム……でいいのかしら? 聖獣だから分類が違うかも知れないけれど。
ベッドの上で体を伸ばすのは、私を乗せて走ってきたシリルだ。ごろんと寝返りを打ち、お腹を見せて首を傾げる。今はダメなのよ、お母様達にお話があるの。誘う狐がこてんと反対に首を傾けて、にへらと舌を出す。ダメ、もふもふに逆らえないわ。ベッドにダイブして、シリルの腹に顔を埋めた。可愛いが過ぎる。
のしっと背中に飛び乗ったのは、猫のノエルだ。甘えん坊の彼は、私がシリルをもふったのが気に入らないみたい。自分も撫でろとアピールしてきた。ずっと馬車で寝ててあまり働いてないけど、狼を癒してくれたのは助かったわ。聖獣で癒しの力を持つのは、ノエルとパールだけだもの。
「あら、フィリスは?」
翼ある狼であるフィリスの姿がない。子犬姿で追ってきたはずよね? 室内を確認していると、思わぬ答えがあった。
「フィリスなら、聖樹様に呼ばれたよ」
「あら、そうなの? フィリスだけ?」
「うん、呼ばれたのはフィリスだけ」
ノエルはともかく、パールやシリルが聖樹様の呼び出しを無視するわけがないわ。納得して頷いた。待っていた侍女にドレスのボタンを外してもらう。貴族令嬢のドレスは、自分で脱ぎ着できないように作られる。面倒だけど、これがご令嬢の証らしいわ。
結婚まで純潔を守る立場としては、簡単に脱ぎ着できる服は防御力が足りないのでしょう。でもスカート捲ったら台無しよね……と思うけれど、そこは指摘しないのが令嬢の嗜みかしら。太腿は卑猥だから見せないのがマナーだし。乗馬ズボンの上に、膝上丈のスカートに似た巻き布をするのも、このマナーのせいよね。
下に履いていた乗馬ズボンも全部脱いで、下着だけになる。聖獣は一応性別があるけれど、幼い頃出会ってからずっと一緒なので羞恥心は刺激されなかった。
ウエスト部分を締め付けないワンピースに着替える。くるぶし丈のスカートは裾が大きく広がり、動きやすい。腰に共布のベルトを巻いて、後ろでリボン結びしてもらった。これで令嬢としての面目は保たれるわね。マーランド帝国皇帝の姪という地位のため、ある程度の節度は必要だった。
「お母様とお父様にお話があるの」
ここまで言えば、優秀な我が家の侍女は一礼して動き出す。休憩室にお茶の用意と、お父様やお母様への連絡が入るはず。ベッドに腰掛けて久しぶりの自室を見回した。何一つ変わってない。淡い緑のカーテンが揺れる窓からの景色も、クリーム色の壁紙、お気に入りの家具に至るまで。変化がないことが嬉しい。
「やっぱり実家は落ち着くわ」
「グレイスお嬢様、旦那様と奥様が承諾なさいました」
「すぐいく」
立ち上がると、当然のように聖獣達がついてくる。彼や彼女らを連れて、休憩室へ向かった。片面の壁を書棚にして、反対側に絵画などを飾った部屋は、食後の休憩に使われる。喫茶室のようなものね。帝国の文化では、床に敷いた豪華な絨毯に直接座るのよ。
部屋に入った私は、以前からお気に入りのクッションが置かれた左側に腰を下ろす。すぐにローテーブルが用意され、お茶やお菓子が並んだ。
「待たせたわね」
「グレイス、すまん」
お父様とお母様が思い思いに座る。お父様が膝を叩いて手招きするけれど、さすがにそんな子どもじゃないわ。笑顔で首を横に振った。
「お母様、お父様。私……やっと婚約破棄されたわ。同時に国外追放と爵位剥奪も申し渡されたの」
「その時、まだあの馬鹿は王子だったのね?」
「ええ。貴族達の前で堂々と宣言してくれましたわ」
お母様の目が輝き、嬉しそうに口元が綻ぶ。年齢不詳な美女の横で、強面のお父様が興奮した様子で手を叩いた。
「よし! オリファント王国の爵位を返上し、国を興すぞ!!」
ええ、思う存分やってしまいましょう!
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