17.馬鹿はひとまず追い払われました
「ちょっと
「兄さん手伝うよ」
カーティス兄様の物騒な発言に、メイナード兄様も同意する。止める気はないので、見送ってしまった。だって、私に関係ないんですもの。勝手に私の名を叫んでるだけの魔物でしょう。だから応援しておく。
「頑張って! カーティス兄様、メイナード兄様」
「「任せろ!!」」
凄い勢いで返事をされて、まさか殺したりしないわよね? と振り返った先で、お父様が唸っていた。野生の動物みたいに牙を剥いて、凄い形相だわ。大股で歩いていく兄達の背に、殺気を飛ばす。
「うぬぅ、またしても先を越されてたまるか! 大剣を持て! わしが直々に成敗してくれるわ!」
「どうぞ、旦那様」
阿吽の呼吸で用意していた武器を渡すエイドリアン。いつの間に? 同行した騎士だけじゃなく、迎えに出た騎士も顔が怒りで赤くなったり青くなったり。これは総掛かりかしら。さすがにそれは卑怯ね。
「お父様、怖いです。ここで守ってくださいませ」
過剰戦力を削ごうと、剣を振り回す父にしがみ付く。頭の真横をぶんと振り抜かれた剣は、私に当たるはずがない。そこは信頼しているので、度胸で飛び込んでみた。腕を絡めて上目遣いでお願いしたら、お父様は一瞬で落ちた。ちょっと簡単すぎない?
「おお、可愛い我が娘よ。そうだな、グレイスを守るのはわしの役目。息子は露払いにちょうど良い。さあ、おいで。抱き上げてあげよう」
え、そこまでお付き合いしないとだめですか? 視線を向けた先で、お母様が小さく頷きます。どうやら許可も出ていますし、遠慮なく。
「お父様!」
「グレイス!!」
大剣を放り出し、お父様が両手で私を抱き上げます。凄い音を立てて剣が地面にめり込みましたけど。両手で腰を掴み、ぐるんと反転したと思ったら肩から腕にかけて座っていました。咄嗟にお父様の頭にしがみつき、バランスを取ります。久しぶりですが、体が覚えているものですね。落ちずに済みました。
がっちりと筋肉が浮き出た腕と肩は安定感抜群です。頭も毛が薄くなったりしていないようで、安心しました。お父様と同じ方向を向いた私の目に、お兄様達が「狡い」「俺もやりたかった」と悔しがる姿が映る。なんてことでしょう、外のサルが放置されていますわ。
「僕、ちょっと追い払って来る」
白い巨大狐が、ふっくらした尻尾を振りながら宣言する。
「シリル? 機嫌が悪いわね」
「僕らのグレイスを呼び捨てにしたうえ、何か不愉快なこと叫んでるからね。いくら魔物でも許せないな」
さっきまで私を乗せてご機嫌だったのに、ぺしんと大きな尻尾が地面を叩く。毛繕いする白猫ノエルは、ぴょんと母の腕に飛び乗って喉を鳴らした。ノエルは甘え上手で、お母様と仲が良いのよね。
唸る聖獣が軽いステップで屋敷前の門を飛び越えた。向こう側で何が起きているのか、見たいのに白い尾羽を揺らすパールが邪魔をする。
「パール、見えないわ」
「見たらダメよ。優しいグレイスは許してあげようとするんだもの」
だから見えなくするの。自分勝手な言葉に聞こえるけど、これって気遣いだと思うから。苦笑いして手を差し出す。大きなオウムのようなパールはそっと腕に止まった。
聖獣はどんなに大きくても体重を感じさせない。優しく撫でて、ちらっと向こう側を窺った。慌てて羽を伸ばして隠されたけど、巨大狐に蹴り飛ばされる二人が見える。くすっと笑った。なんだかんだ怒ってても、私の意思を汲んでくれる聖獣達が愛おしい。
足を押さえてくれる父が笑いながら騎士に声を掛けた。
「馬鹿は追い払われた。さあ、今夜は祝いの宴だぞ!」
魔物、馬鹿、サル……呼び名がいっぱいある方々はしばらく屋敷に近づけないはず。宴は盛り上がりそうね。どの服に着替えようかしら。
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