第4話:報告

 舞踏会が終わると、エトワールはルクスを連れて国王の元へ向かいました。


「来たか。エト」


「いらっしゃい。今お茶を出すわね」


「おー。エト。待ってたぞー」


 国王の部屋には国王と王妃、そしてエトワールの兄であり第一王子のレグルスがいました。


「……兄上、何故いらっしゃるのです」


「可愛い弟の婚約者の顔を拝みに。ルクス」


「は、はい」


「お前、エトのどこに惚れたの?」


「えっ、えっと……」


「わしも気になる。お前さん、昔からエトに振り回されてばかりじゃったじゃろ」


「いや、俺というか、ステラですよ。振り回してたのは。なぁルクス?」


「……確かに、エト……ワール王子とステラ王女には昔からよく振り回されてきました」


「いや、だから、俺は振り回してないって」


「振り回してたよ。授業出たくないから代わりに出てくれとか言って俺を身代わりにしようとしたり」


「いつの話だよそれ……」


「夜中に従者の目をかいくぐって部屋を抜け出して騎士団の寮に侵入したり……」


「あぁー。お前の部屋に忘れ物した時な」


「翌日取りに来れば良いのに……」


「翌日になったら忘れそうだったから」


 国王と次期国王の前にも関わらず、ルクスのエトワールに対する不満は止まりません。やがて国王が笑い出したところで、ルクスはようやくハッとしました。そしてみるみるうちに青ざめていき、勢いよく国王達に頭を下げました。


「はははっ。構わん。全て事実なのだろう。我が息子が迷惑をかけてすまなかったな」


「ステラの影に隠れてるけど、エトもなかなかやんちゃだったからな」


「兄上がそれをおっしゃいますか」


「ふふふ。ルクス」


「は、はい」


「エトのこと、これからもよろしくね。これからは従者ではなく、婚約者として。私達王家はあなたをエトワール第二王子の婚約者として歓迎いたします」


「っ……ありがとうございます……」


「ありがとうございます。母上」


「父も大歓迎じゃよ」


「兄もじゃよ」


「は、はい。ありがとうございます。父上、兄上」


「うむ」


「おう。さぁー、忙しくなるなぁ。エト、ルクス、しばらくは身の周りに気をつけろよ。お前達を暗殺してでも同性婚の法制化を阻止したい輩が居ないとも限らないからな」


 兄の口からサラッと放たれた暗殺という言葉に、エトワールは青ざめますが、ルクスは平然とした顔で頷きました。


「大丈夫。俺が必ず守るから」


「お。流石騎士。カッコいい〜」


「茶化さないでください……レグルス王子……」


「はっはっは。すまんすまん。エトも、脅かしてすまなかったな」


「いえ。……大丈夫です。王家に生まれた以上、何かあれば命を狙われる可能性があることは理解しています」


「まぁ、安心しろ。狙われるとしたら多分ステラが先だ。ステラは口説いた女に逃げられてたから、それが原因で自殺したことに見せかけるチャンスだろうしな。まぁ、あいつがそんなメンタル弱いわけないんだが」


「そうなると今夜は特に危ないのでは」


「心配するな。警備は増やした。それと、あいつが口説いてた女性の行方も探している。ステラ曰く、魔法で変身していたから見た目の特徴は当てにならないらしいがな」


「魔法?」


 何言ってるんだあいつはと苦笑いするエトワールでしたが、ルクスは納得した様子でした。


「ステラ王女が彼女とお知り合いになったのは私も同行していた時だったのですが、その時の彼女はもっとこう……とてもあのようなドレスを買えるような裕福な家庭で育ったようには見えませんでした。それとあの日、ステラ王女は魔女に会ったとおっしゃっていました。魔女を助けて、お礼に魔法の杖をもらったが一本しかなかったため彼女に譲ったと」


「魔女とか魔法とか、にわかには信じがたい話だな」


「急に逃げ出したのは魔法の効果が切れそうになったからとか?」


 レグルスがそう言うと、エトワールはふと、ステラがガラスの靴を拾っていたことを思い出しました。


「彼女が落としたガラスの靴はステラが持っていますが……あれも魔法で出来たものなら消滅したり、元の靴に戻ったりするのではないでしょうか」


 すると、タイミングよくステラが部屋を訪問してきました。


「どうした? ステラ」


「エラが落としたガラスの靴の件ですが、先ほど跡形もなく消えてなくなってしまいましたの。消える様子を慌てて動画にしましたので、お兄様方にご覧いただきたくて参りました」


 ステラはそう言うと国王の許可を得てスクリーンに動画を映し始めました。そこにはガラスの靴がゆっくりと光の粒となって消えていく様子が納められていました。


「……ドレスもこうなるとしたらそりゃ慌てて帰るわな」


「レグルスお兄様、今何想像しましたの」


 ステラに睨まれ、その他四人に呆れた顔で見られ、レグルスは気まずそうに目を逸らしました。


「まぁ、ともかく……これで見た目が当てにならないことは証明出来ましたわね。あぁ、そうそう。ルクス。聞いたとは思いますが、レグルスお兄様の部下が現在彼女のことを調べていますの。もし明日、終わっていなかったら貴方も手伝ってあげてくださいな」


「はい」


「あぁ、それと。ルクスもお兄様も、しばらくは身の回りにお気をつけて」


「お前もな。ステラ」


「えぇ。分かっています。では皆さま、おやすみなさい」


「おやすみ。ステラ。良い夢を」


 頭を下げて、ステラは自室に戻っていきました。


「父上、母上、兄上。私もそろそろ」


「うむ」


「おう。おやすみ。エト、ルクス」


「おやすみなさい」


「はい。おやすみなさい」


「失礼します」


 エトワールもルクスと共に王の部屋を後にします。扉を閉めると二人は揃って深いため息を吐き、そして顔を見合わせて笑い合いました。


「エトも緊張してたんだ」


「そりゃするよ……父親とはいえ国の王だし、普段は忙しくて話す機会ってあんまり無いし」


「……よく考えたら、君と結婚したら国王陛下と女王陛下が俺の義理の両親になるんだよな」


「それと、次期国王が義理の兄」


「……胃が痛くなってきた……」


「今更逃さないからな。ルクス。お前はもう俺の婚約者だ。正式な発表はまだだが、父上達に宣言した以上、もう簡単に婚約破棄はさせないから」


「……今更逃げる気はないよ。逃げたところで、君は女性と結婚する気はないんだろう? 女性ならともかく、別の男性に取られるのは悔しい」


「女なら良いのかよ」


「よくない」


「俺もやだよ。許されるなら、俺はお前と結婚したい」


「……俺もです」


「うん。ありがとう」


 エトワールはルクスを連れて部屋に向かいます。部屋の前で待機していた騎士は黙ってルクスを部屋に通しました。

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