第3話:舞踏会にて
それから数日後。ついに舞踏会が開かれました。
「来てくださるかしら。あの子」
「あの子?」
「以前街に出かけた時に知り合った女性です。いらしたら全力で口説こうと思ってますの」
「へぇ。名前は?」
「知りません」
「は!? 名前すら知らないの!?」
「ええ。ルクスのせいで聞きそびれてしまいましたから。ところでお兄様、あなたの恋人、女性に囲まれて困っていますけれど、助けに入らなくてよろしいんですの?」
そう言ってステラは女性に囲まれているルクスの方に目をやります。
「『こいつ、俺のだから』って言ってカッコよく助けに行くチャンスですわよ」
「なんだよそれ……」
「一般市民も集まるこの場所で堂々と彼を恋人だと宣言するのはやはり抵抗がありますか?」
「そりゃな……」
「まぁ、そうでしょうね。お兄様は小心者ですものね」
「そう。お前みたいにメンタル強くねぇんだよ」
「分かりました。ではわたくしが先陣を切って差し上げます。とりあえず、愛しのあの子を探して参りますわね」
「そもそも来てるの?」
「わかりません」
「おいおい……」
「ご安心ください。その場合のこともちゃんと考えてます。では」
そう言ってステラはドレスを持ち上げ、エトワールに頭を下げて去っていきました。
会場をうろつくステラを見守っていると、一人の女性がステラに話しかけました。ステラは彼女と談笑していたかと思えば、跪き、彼女の手を取りました。どうやら、彼女がステラが探していた人物のようです。
『あれ、ステラ王女じゃないか?』
『何者だ? あの美しい女性は』
会場はざわつき、二人は会場の注目を集めます。エトワールはその様子をハラハラしながら見守ります。
二人はしばらく何かを話して、やがて女性がステラの手を取りました。それを見たエトワールは「俺も行くしかないな」と笑い、恋人であるルクスの元へ行き、彼の前に跪いて手を取りました。
「俺と踊ってくれないか。ルクス」
「……本当に良いのですか。私で」
「構わない。父上には俺が女性を愛せないことは話した。次期国王となる兄上にも。同性同士の婚姻制度の法制化について前向きに検討してくれるそうだ。ルクス。同性婚が法制化された暁には、お前を正式に俺の婚約者として発表させてくれ」
エトワールがはっきりとそう言うと、再びざわめきが起きました。
『待って、婚約者って言った?』
『えっ、どういうこと? エトワール王子は男が好きなの?』
「……王子」
「さぁ、手を」
「……はい」
ルクスがエトワール王子の手を取ると、一部からは悲鳴が上がりました。その悲鳴は落胆ではなく歓喜の悲鳴も混じっていました。
一部の貴族が止めに入ろうとしますが、騎士がそれを制します。国王はあらかじめ騎士団に言いつけていました。『エトワールが誰をパートナーに選ぼうと何人たりとも口出しはしてはならない』と。
「……なぁ、ルクス」
「……はい」
「舞踏会が終わったら俺と一緒に来てくれ。父上にお前のことを正式に紹介しに行くから」
「……はい」
「……うん」
その時でした。零時を知らせる鐘が辺りに鳴り響きます。すると、ステラと踊っていた女性はステラの手を離し、謝りながら急いで駆け出しました。ステラは慌てて彼女を追いかけます。エトワールとルクスも気になり、彼女達を追いかけました。
「あぁ……」
「フラれてやんの」
エトワールがステラを茶化すと、ステラは頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向きました。すると、ステラはエラが落としたガラスの靴に気付きます。
「彼女の靴ですわ」
「良かったな。もう一度会う理由ができて」
「ふふ。わたくしともう一度会う口実のために置いていってくださったのかしら」
「うわっ。何その都合の良い解釈。怖っ!」
「うるさいですわね。ルクス、エラという名前の女性について調べなさい」
「……今すぐですか?」
「……明日からで構いませんわよ。どうせあなた、今夜はお兄様と一緒に過ごすのでしょう?」
「おっ。空気読んだ」
「お気遣い、感謝します。姫様」
「ふふ。お幸せに」
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