第27話  side女官への1番

「あーあ―ただ今通信機のテスト中」

『テストはいらないと言うかだ。それを持ち出す前に確認をしていただろうが』

「はあ、ノリが悪いですね」

『いや、ノリがどうとかの問題ではないと思う。それよりも報告をしろ』


 通信機を持てばこういう確認をしたくなるのが人情でしょうが。

 全くわかっておられませんね。


「了解です。ただ今対象者は室外へと出てまいりました」

『進行方向は?』

「東北へ、真っ直ぐにそちらへ向かっております」

『そう……』

「如何致しましょう」


 捕縛、捕縛監禁、地下牢へ繋ぎ尋問拷問ありとあらゆる行為はお手のものです。


『――――ああそう言うのはまだいいから取り敢えず尾行して』


 チっ、ただの尾行……子供の遊びに付き合う程暇でもないし第一面白くはない。


『への1番、余計な事は考えなくともいいよ』


 あら、お見通しなのですか。


『今の君は私の与えた任務を正確にこなせばいいのだからね』

「はい、では大人しく尾行を致します」

『変わった事があればその都度――――だからね。もしそれを違えれば言わなくとも賢い君ならわかる……よね』


 その一言で全身に寒気が走るのと同時に背中に冷たいものがつーっと流れ落ちていく。


「は、はい、しっかりと任務に励みます!!」

『そうよかったよ。君が聞いているよりも察しのいい子で私も助かるよ。じゃあね』



 私は深く嘆息するとイヤーカフ付の小型マイクをオフにした。


 罰としてアレをされる程怖いもの何てない。

 恐怖そのものだ。

 全く変な所で弱味を知られてしまったものだ。

 お陰で私は――――。

 


 私は王宮の……付きの女官であると同時にもう一つ秘密の名前がある。


 その秘密の名前……暗号名は1


 それ以上でも以下でもない。

 また彼の御方の許には暗部と言うこの国の闇の全てを統括する組織がある。

 つまり現在の私はそこに所属をしている。


 因みに表の顔は本当に女官である。

 日中普通の女官達と一緒に仕事をしていると何とも言えずほっこりとした幸せを何気に噛み締めてしまう。

 だが裏の顔でもあるへの1番の私自身も本音を言えば嫌いではない。

 放り込まれた経緯は色々考えさせられるものは確かにあるし、その全てを受け入れている訳でもない。


 しかし気づけばこの職業はある意味私の趣味に嵌っている事もあって存外に愉しい。


 因みに今回の任務は目の前の女が対象者である。

 簡単な経緯は聞いてはいるけれどもだ。

 男を抱き込んで堂々と王宮へ潜り込めばだ。


 王子漁り……ってそんなに言う程王子様と言う存在はよくもないぞと言い聞かせてやりたい。


 とは言え招待状なしの完全なる侵入者なのだからさっさと手っ取り早く捕縛をすればだ。

 尋問拷問、新しい自白剤の人体実験でもして目的を吐かせばいいのに――――って十中八九目的はわかり過ぎている。

 何故なら彼女達の狙うエサは見た目だけはとても美味しそうなのだから……な。

 そう過去の私も……って今はどうでもいい。


 兎に角だ。

 右や左と、本当に迷う事無く目的のエサの方へと確実に歩いている。

 時折考え込む動作も見受けられるけれどもだ。

 何かを思い出せばすたすたとエサの許へと着実に歩いていく。


 そうして新しく開発した罠を仕掛ける事も許されず私は退屈で死にそうになりながらも女の目指すだろう目的地近くまで後ろをついて……って静かに尾行をするのであった。

 

 勿論対象者には気づかれてはいない。

 これはプロとして当然の事だけれどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る