第14話  sideエリーゼ

 ぼん


 何で?

 何でなの⁉

 どうしてクッキーが爆発するのぉぉぉぉぉぉぉ。



「ねぇあなたこの屋敷の料理長なのでしょ。どうして私の作るクッキーが爆発するの?」


 何度この質問を私の近くで、ううん正確には少し距離があるわね。

 私の気の所為でなければ料理長だけではなく下働きの者達も確実に壁や何かで自分達の身体を護っている様に見える。


 ま、まあ確かに爆発だけで十回。

 その度にオーブンの調整が微妙に可笑しくなっている?

 おまけに厨房は常に細かな白い粉が舞っている。


 粉雪みたいで綺麗だな~って思って眺めていたらよ。


 何故か料理長達が慌てた様子でって、うん特にオーブンを使用する前かしら。

 あちこちの窓を全開にして換気をしている。


 そして今は真夏じゃない。

 しっかりがっつりとそう偶に木枯らしと一緒に落ち葉が舞い散る秋だって言うのにね。


 わかっているの。

 そんなに開けっ放しにすれば普通に寒いじゃない。


「ねぇ窓を閉めてくれない?」


 優しくお願いをすればよ。


「申し訳ありませんがので……」


 何よ、あったまきちゃう。

 何で窓を閉めるだけで死んだりするのよ。

 私が身分の低い男爵令嬢だからってバカにしないでよね。


 これでも悲惨な前世を乗り越え必要最低限の知識は無理やり……そう血の滲む様な努力をして頭の中へ叩き込んだのよ。


 ああそれもこれもひとえにカルステンの為だけ。


 あっは、エグモンだけなら絶対にしない。


 だってエグモンは侯爵家の子供とは言え三男だもん。

 上の二人が死なない限り跡継ぎにはなれないし、エグモン自身がその器じゃないもんね。


 エグモンは程よい感じのお馬鹿さん。

 そこが癒しでもあるのだけれど。

 そしてそんなエドモンがお貴族様でいる為にはヤスミーンの夫となって公爵家を継ぐしか道はない。


 勿論実質公爵家を管理運営をするのはヤスミーンよ。


 だって私達の中で一番頭がいいんだもの。

 難しい事ややこしい事はぜーんぶヤスミーンが受け持つの。

 私はエグモンの愛人としてお金を自由に使い贅沢をしエグモンを癒すって言うか癒して貰う?


 お金と私の可愛らしさと愛らしさがあれば男遊びも苦労はしないしね。


 違う違う違う違う。

 それは全てカルステンと出逢う前の事。


 今はカルステンの心をゲットして思いっきり上手くいけば妃?

 あー身分的に問題があるならば側室若しくは愛妾でもいいわ。

 最悪単なる恋人でもいい。


 要は彼をゲット出来ればよ。

 肩書なんてどうでもいいの。

 私は数ある女達の中で一番カルステンの心をゲット出来ればそれでOKなのだから。


 その為にも今度こそクッキーを成功させなきゃね。

 私の思いの丈を込めた愛情いっぱいのクッキー。

 ちょっとしたアクセントに木っ端微塵に切り刻んだ私の髪の毛入り。


 私の切ない想いがカルステンへ伝わります様に……って?


 だけど悲しいかな、今まで焼いたクッキーはどうしてなのかほぼほぼ黒焦げからの真っ黒焦げ。

 ややましなものでも焦げがある。


 つんつん


 ぼろ……。


 運よく手で持ち上げられるものは二つに割れないくらいガンガンに硬い。

 一方持ち上げられないものはと言うかよ。

 軽く突けば炭を通り越して崩れてしまう!?

 こんな調子で明日の舞踏会までに間に合うのかなってちょっと不安。


 ええーい、女は度胸に根性それから愛嬌だぁ。


 こうなればクッキーが上手く焼けるまで何度でも焼き続けて見せるわ!!


 見てなさいカルステン、あんたが泣いて美味しいと言うクッキーを私はたった一晩で作り上げてみせるわよ。


 ふふん、一口クッキーを齧れば私へ惚れる事間違いなし!!


 そうして私はまた気を取り直し時間を忘れてクッキーを焼き続けたのよ。


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