第12話 sideヤスミーン
「お嬢様宜しいでしょうか?」
「どうしたの……いえ今度は一体何をやらかしているのかしら」
我が家の優秀な執事のマルセルは渋々と言った感じで報告を始めます。
「はいエリーゼ様が突然厨房に出没されたとの事です」
最早我が屋敷に仕える者達にとってエグモンド様とエリーゼ嬢は珍獣扱いですわ。
そう彼らの行動は非常に分かり易い反面時々訳の分からない行動に出るのです。
幾ら彼らの尻尾を掴む為に魔道具を屋敷中に仕掛けているとは言えですわ。
突発的な行動まで止める事は出来ません。
何と言っても魔道具の機能は録画と録音機能だけですもの。
買い物とデートに観劇、問題にならない程度の接触の次は一体何?
さっさと一緒の部屋で寝ればいいの――――こほん。
今のは淑女としてあるまじき発言でしたわね。
とは言えです。
この奇妙な同居生活も早ひと月と半分が経過したのですよ。
普通にあり得ない同居。
一人は訳の分からない……永遠に理解はしたくはないですね。
人の仕事の邪魔をするかの様に執務室へ時折ひょっこりと現れてはですわ。
ニヤ~と少し?
いいえ思いっきりニヤニヤと気持ちの悪い笑みを湛えたままじーっと私の仕事をしている姿を見つめているのです。
何かを話す訳でも仕掛けてくる様子は全くありません。
ただ同じ部屋の中でじーっと私を見つめては時折気持ちの悪い笑みを浮かべるだけなのです。
ああ今思い出しただけでも鳥肌が〰〰〰〰⁉
暫くして何かをきっと満足したのでしょうね。
そうして何もなかったかの様にスーッと静かに部屋より出て行くのです。
仕事を手伝う訳でもなくましてや勉強をしている様子は全くも受けられない。
ほんっとうに気持ち悪いのです!!
エグモンド様がこの部屋にいらっしゃるだけで仕事の効率は見る間に落ちればです。
頭と心の中は気持ち悪さで一杯となり、書類の内容は少しも頭の中へ入ってこないのです。
私にとって彼は間違いなく疫病神。
ただ彼自身がその事に一切気がついてはいない。
もしかするとこれが新手の嫌がらせなのかもしれません。
巷ではやっているだろう婚約破棄騒動では私の様な立場の女性は必ず婚約者より謂れのない罪を着せられればです。
相手が私よりも高位ならば様々で大変身勝手な罪状を突き付ければ、この国より追放若しくはうんと年上のヒヒジジイと無理やり結婚させると言う事象があるらしいのですが、生憎私はエグモンド様よりも身分は高位なので流石にそれは実行出来ませんね。
とは言え身分関係なく舞踏会場や人々の集まる所で高らかに婚約破棄を宣言をするお馬鹿さんも多いのです。
婚約破棄宣言後の先を全く考えず、お花畑のお頭で愛人とお手々繋いでランランランってした後に必ず……ええ百発百中の高確率で反撃されているのですもの。
勿論元婚約者だったお相手とその家族、それからご自分達の両親からもですわ。
私も当初エリーゼ嬢を伴われたエグモンド様を見た瞬間思いましたもの。
あ、こいつやらかしやがりました……ってね。
ですので色々と罠を仕掛けさせて頂き、然るべきの時の為に決定的な証拠をと待っておりますのに未だ確たるものが掴めません。
苛立つ日々。
一体何の我慢比べなのかしら。
そこからのエグモンド様の奇行。
ああもしかしなくとも本当にあれは新手の嫌がらせ?
だとすればエグモンド様、かなり効果抜群のものでしてよ。
お陰様で出没された日には思う様に仕事が捗らない。
ですが売られた喧嘩は私……捨て置かず買い上げる事にしておりますの。
そうして買い上げたものはそっくりそのまま?
倍返し?
いえいえ百倍、一万倍返し……つまりは完膚なきまで叩き潰すって意味ですわ!!
私の精神をゴリゴリと削られた分はしっかりと何れ然るべき日にちゃんとお受け取りになって下さいませ。
「ところでエリーゼ嬢は何故厨房へ出没したのです?」
「は、はあ料理長が申しますには明日は愛しいカルステン様へクッキーをプレゼントするのよと仰っておられたようです」
私はその言葉に軽い頭痛と眩暈を覚えましたわ。
なのでゆっくりと深呼吸をしました。
「もう一度……ええゆっくりと話して下さいな」
「は、はいエリーゼ様は何故かカルステン殿下へクッキーをプレゼントすると言ってただ今厨房にて目下製作中に御座います」
あんの馬鹿野郎……いえエリーゼ嬢、一体何がどうなって殿下にクッキー?
何時何処で渡す――――ってまさか本気で舞踏会へ行く心算なのですか?
い、いや無理無理無理無理でしょう。
普通にそこは身分的に絶対王宮へ入れないって言うかです。
エグモンド様よりお話を聞かれたと思いますし当然、いやそこは誰でもわかる事でしょう。
いえそれよりもですわ。
エリーゼ嬢はエグモンド様の愛人……表向きは従妹で幼馴染でしたわね。
確か病弱って触れ込みもあった様な……。
「マルセル、悪いのですが頭痛がするので薬を、それから胃薬もお願いしま――――」
「そう仰られるだろうと思いましてこちらに用意しております」
マルセルは静かに私の前へ薬と水を用意してくれました。
兎に角これを飲んで少し頭の中を整理する事にしましょうか。
でなければこちらが先に色々と爆発しそうなのですもの。
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