第8話  sideヤスミーン

「このひと月の間にドレスを十二着、宝石はブルーダイヤに始まりピンクサファイヤやエメラルド等で計八点。どの品も一介の、没落寸前の男爵家の令嬢が身に着けるには少々不似合いなものばかりかと思われます」

「……そうね単なる男爵令嬢が身に着けるにはどれも高価過ぎでしょうね」



 私は今執務室で我が屋敷で長年働いてくれている皆の協力もあり邸内に仕掛けられていた魔道具に録画されたものをぼんやりと見ています。

 当然録画されているだろう映像や音の主人公はエグモンド様とエリーゼ嬢です。

 またエグモンド様とエリーゼ嬢に見つからないよう皆見事なチームプレイで以って彼らが購入したであろう……何故か私へ請求書を送っていると言う不躾極まりないと怒るのは後にしましょうか。


 二人がいない間にドレスを一着ずつ、宝石を一点ずつ誰が見ても分かり易い様に録画されております。

 勿論屋敷中に魔道具を取り付けておりますので彼らの、特に物を強請る際のスキンシップ等もしっかり録画されておりますわ。

 当然音源も……。


 とは言え彼らが親密な関係である確たる証拠は未だないのです。

 確かに愛人を連れ込んでの婚前同居ならぬ共同生活……最早同棲とは認めたくはありませんし結婚の意思もありませんわ。


 抑々両親が勝手に決めた婚約。


 確かに貴族の結婚はお互いの家同士の契約である事は理解しております。

 ですが両親が他界した今私はこのひと月の間密かに何故この婚約へ至ったのか。

 また婚約をする事で我が公爵家にとって益となるものは確実に存在するのかを調べ上げたのです。


 調査の結果侯爵家側が公爵へ齎すだろう益は何も存在しません。

 いえ反対にエグモンド様のご実家へ融資を、然もこれが結構な額なのです。

 返済に関する利子もあってないようなもの。


 それ故に私は更に理解が出来ないのですわ。


 タダ同然で多額の融資をしただけでなく今も現状自動的に融資を行われている。

 また息子は婿入りなのにも拘らず愛人を連れ込んだ上に勝手な自己解釈で自分の財布ではなく我が公爵家のお金で愛人へ貢ぎ続ける。

 おまけに女公爵となる私の仕事をサポートする予定なのにも拘らずです。

 自らが進んで何も学ぼうとする気配すらありません。

 かと言って自主的に勉強している訳でもなく日がな一日愛人と買い物をするか若しくは何かをパクパクと食べています。

 

 まるで家畜……いえ、家畜以下ですわね。


 我が領地で育てられている動物達に失礼過ぎますわ。

 彼らは我が領地を潤す為に頑張ってくれているのですものね。

 散財もしなければ時にはその尊い命をも私達は生きる為に提供して貰っているのです。

 そう考えれば如何にエグモンド様との結婚が無意味で無価値でしかないと思えてきます。


 少々はしたない考えですが二人が親密な関係であれば現場をしっかりと押さえ堂々とあちら側の有責で婚約を直ちに破棄をし、慰謝料を請求の後負債しか生まない融資云々も全て断ち切ってみせますのに、本当に人生とは思うままにならないもの。


 現状で全てを断ち切るには色々とまだ弱過ぎます。

 トカゲの様に尻尾を切ればそれで終わり……にはしたくはありませんわ。


 なので私はもう少し待つ事に致します。


 ええ腹立たしいのですが仕方がありません。

 こちらもまだ全ての調査が終わってはいないのです。


 カル、貴方が最期の頼みの綱なの。

 どうか吉報を見つけ出して下さいませ。


 私は今ここにはいない相手を想い彼へと繋がっているだろう空を見つめるばかりです。

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