僕はキラク。彼はカタクナ。

Toni(アンダーバー)hapi

自己紹介は滑りがち。

彼はカタクナ。

僕、自己紹介は出来ないので、他己紹介をしようと思う。彼は何事にも置いてもブレない人で、僕はチョッピリ彼が苦手なんです。

でも、基本的にはいいやつなので仲良くしてあげてください。


「こんな感じでいいかな?」


彼は答えないのです。少し、僕の紹介に気になる節があったんだと思います。だからと言って悪いやつではないのですが、困ったものです。


唐突ですが

彼が小学生の頃のエピソードをお話しようと思います。昔から自分が決めた事に対して、意見を変えようとしない奴でした。なのでこの日も彼は、普段通りに過ごしていたといえます。


それは下校の時の事。

学校からの帰り道に彼は、彼の大切にしていた鉛筆を同じクラスメイトに盗まれたと言い始めました。

この時は彼と僕の2人きりで、今さっき鉛筆が無くなっている事に気づいたようでした。僕は、彼がいつも同じ鉛筆を持ちあるているのを知っていました。


それが大事な物である事も。


持っている所の塗料が剥がれて、下のヒノキが所々顔を覗かせている5センチくらいの鉛筆。

それが彼が探している鉛筆でした。

僕も彼も下校する時は、その鉛筆を彼が握っていた事を覚えていました。上履きを履き替える時に手離し、その時にそのクラスメイトが持っていたのだと、彼は自分が発見した真実に縋り付いて、僕の言葉は全く聞いてくれないのです。

僕は実際にそのクラスメイトが、僕らより先に学校を後にした事を覚えていました。けれども彼は頑なにその子の家に行って返して貰うのだと言って、まったく取り合ってくれませんでした。とうとう僕が折れて、そのクラスメイトの家に行く事になりました。


その子の家はそこからさほど、遠くはなかったため5分足らずで表札の前までやってこれました。終始彼は不機嫌で、林檎のみたいに膨れた小さな頬を、まるで紅葉の始まったモミジの様に夕陽で染め上げているのです。


チャイムの音から暫くして、軽やかな足音と共に重要参考人が戸口に突っ立ちました。僕は黙って下を向いたまま彼は、はち切れんばかりの真っ赤な顔を向けてその子を出迎え、そこから先は、やったやってないの終わりがない主張を互いに突き刺す戦いが、幕を上げる事となりました。結局、先に主張の槍で胸を貫かれ、やり場のない怒りを涙に変えたのは、そのクラスメイトの方でした。それを見ると彼は追撃を切り上げて、そのまま何も言わずに走り出した。僕は謝罪の言葉を口の中でモゴモゴと言い、彼に引かれるように踵を返した。


僕が追いつくと、カタクナは息を切らして電柱に寄りかかったまま、己の心の中を見つめていた。僕にはカタクナが今起こった衝撃に対して、直視するのを避けている様に見えたのだ。

子供の頃は、何事もその存在より大きく見えてしまう物で、大人になってからいかに自分達が、どうしようもない生き物か気付かされる。


ともあれ、僕は一回学校に探しに行く事を提案し、彼は何も言わずに学校の方へ歩き出した。学校では何時間も例の鉛筆を2人で探した。校庭も教室も勿論下駄箱も他の教室や廊下も、隅々まで探したが、何も出てくる事はなく、途中で手伝ってくれた先生もいつの間にか、帰ってしまった様だった。僕らは諦めて帰路についた。外は既に薄暗く、顔に吹き付ける風がやけに心地良かった。2人の熱が冷めていく中、上を向いたカタクナの目には月の欠片が薄らと映っている僕はなんて声を掛けたらいいのか、検討もつかずに押し黙っていた。

色んな言葉の破片が脳細胞の間を駆け回る。

こんな時、皆んなはどんな言葉をかけるのだろう。

何を言っても今の彼には届かない。どんな言葉を掛けるよりもこの沈黙の時間に価値があった。

「ぁ!...」

彼は瞳から星を降らしていた。


どんな人でも涙が出る事を僕は初めて知った。彼は大粒の涙を幾筋も流しており、その涙が夜闇に光る街灯に照らされ、流星の如く弧を描いて落ちていく。


声の無い絶望が、住宅街の生活音に呑まれていった。

 









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