3 美花と五月雨


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 ほおずき映画館の女性スタッフ、渋谷美花は25歳の男性スタッフ橋田章宏と一緒に毛布やレインコートなどを客たちに配っていた。

 焼き終えたホットドッグをトレーに載せていると、布製のキャリーバッグに入っている灰色のオス猫が二人を見つめていた。


 「この猫、首輪に『五月雨』って名前が書かれてる。『見つけたら電話を』ってメモも入ってるぞ」章宏は映画館の1階にある『スマートフォン使用可能』のグッズ売り場で勇人にライン電話をした。

 『ほおずき映画館スタッフ、橋田章宏と申します。勇人くんの愛猫五月雨が館内で見つかりましたのでお電話させていただきました。渋谷さんが指を動かすと、バッグの中で立ち上がっています』

 「橋田さん、はじめまして。勇人と言います。五月雨は元気なんですね。今から

父や妹たちとそちらに向かいます」

 『足元に気を付けてお越しください。お待ちしています』章宏は嬉しそうに指を動かしながら五月雨と遊ぶ美花を見つめながらにっこりと笑った。


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 スコーンが描かれたイギリス陸軍の制服のボタンを閉め、スティーブンはほおずき映画館の周りで流された人がいないかあたりを見る。「橋田さん!」という女性の絶叫と、猫が入ったキャリーバッグを持った男性スタッフが濁った水の中にいるのが見えた。

 スティーブンは水中に入って男性の腕をつかんで階段前まで来ると、自分のコートを着せてほおずき映画館内に戻り椅子に座らせる。

「ありがとう。僕は橋田章宏です」「俺はスティーブン。体を温めよう」

 ほおずきのピンをつけポップコーンを作っていた24歳のアメリカ人女性ザーラ・ラブズムービーが、黒コショウ入りのホットドッグとトマトスープを二人に渡す。ウォーム・カインドが神奈川の野菜直売所から送ってきたトマト60個が入った段ボール箱、ビスケットなどもある。


 「橋田さん」美花が章宏に手袋を渡す。二人はトマトスープを飲みながら、スティーブンと話す。「俺はイギリス陸軍、スティーブン・ロンドン。日本で救助活動をして10年目になる」「ほおずき映画館スタッフ、橋田章宏と渋谷美花です」

 3人は握手をしてから、キャリーバッグの中で足を伸ばしている五月雨を見る。1時間後、勇人やアウグストたちが館内に入って来た。


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 「五月雨」と勇人やしおりが呼ぶと、「ナーン」と鳴きながら二人をじっと見つめ、マルゴットが肩に乗せているメンフクロウと旅館から持ってきたかごに入ったヒナを捕まえようとする。

 猫アレルギーのスティーブンがくしゃみを5回し、ティッシュを章宏からもらう。

アウグストが「五月雨、僕はアウグストだ」と声をかけると、彼のお腹に乗ってきた。

 



 

 


 

 

 

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