アウグストとしおり


 「しおり!」勇人と賢人は絶叫し、しおりに駆け寄ろうとしたがしおりは失神していて、倉庫には鍵がかけられた。アウグストは段ボール箱が積まれた裏口から倉庫内の2階に入った。


 しおりの口には粘着テープが二重に巻かれていて、一枚の衣服も身に着けていない。後ろから肩をたたかれ「僕だ、しおり」とアウグストの声がし、冬用の茶色いベストと紺のジーンズ、ブーツを渡された。

 しおりが着替え終えた直後、アウグストの絞め技を受けたアメリカ人男性が失神し

濁流が倉庫内に入って来て、二人はマルゴットや勇人たちと『ほおずき映画館』の7階に避難した。



 「私の母は医師で、病院に泊まることが多く、家に帰ってくるのは週に1日だけでした。

 父や兄と病院から帰った時、母が亡くなる前に書いた手紙を読んで二人は3か月号泣し続けてました」泣き出したしおりの両手を握り、アウグストは父と同じ青い目で彼女を見つめ抱き合う。

 「しおり。これを」アウグストは緑色の箱を彼女に渡す。箱を開けると、裏面に『しおり Ich mag Sie(僕は君が好きだ)』と緑色の糸で縫い付けられたベージュの手袋が入っていた。

 しおりは「アウグストさん、ありがとう。嬉しいです」と泣きながら言った。


 

 アメリカ大統領ウォーム・カインドとアン夫妻は『五月雨』と書かれた首輪をつけたオスの猫をなでながら、勇人としおりにライン電話をかける。







         





 

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