番外編3

『小夜は変なものが大好きだ。たまに興味本位で分解して、ねじを一本余らせて首を捻っているところを見掛ける時がある。』


「恵里衣お姉さん。どこ住み? 通信アプリやってる?」

「どっからそんな言葉覚えてきたの」


 今は、小夜の家、小夜の部屋。私の部屋なんかよりも遙かに広い和室である小夜の部屋には本棚がたくさんあり、本やら不思議なオブジェやらがたくさん並んでいる。本の中には、私が読めない言語の物まである。そんな中、私は正座で小夜と向かい合う。……何故か小夜も正座だ。


「そもそも小夜はスマートフォン持ってないでしょ」

「それは盲点だ。なんてこった」


 そんな謎の小夜の言葉により、小夜主催、小夜による、私のためのクリスマス会が開幕した。とりあえず、一つ言っておきたいことがある。


「なんで鏡餅がクリスマス仕様なの?」

「和洋折衷だ」

「絶対使い所間違ってるよ」

「なんと、おばあさまは合ってるって……」

「あの人、小夜に激甘だから駄目」

「駄目か?」

「駄目」

「……どうしても?」

「…………」

「ほっへほふかむひゃ」


 ほっぺを掴むなと言う小夜の頬から指を離す。ここ最近の小夜は何というか……小賢しい? 年相応だから別に良いのだけれど。今までが聞き分けが良すぎたんだ。


「そうだ」


 小夜はそう言い、手を合わせる。


「今日のために色んなゲームを用意したんだ。選り取り見取りだぞ」

「なるほど?」


 私がそう言うと、正座のまま、小夜は後ろへ振り向き、段ボールを引っ張り出す。その段ボールには『捨てるべからず 捨てたら泣く さよ』とでかでかと書かれている。


「この箱にあるものはガラクタでも捨てられないんだ」

「……ガラクタ入ってるの?」

「パカパカする携帯端末とかあるぞ」


 そう言って小夜は何かを取り出す。それはかつてガラケーと、呼ばれていた(らしい)桃色の携帯端末。小夜はそれをパカパカしながらドヤ顔している。


「珍しいだろう?」

「確かに珍しいけど」

「あろうことか、おばあさまはこれを捨てようとしたんだ!!」

「……なんで?」

「もう使わんだろう、って」

「まぁ、正論ではあるんだろうけど」


 しかも、よくよく言われてみるとサンプル……いわゆるモックと呼ばれるものだった。つまり、電源も入らないし、使えるわけでもない。しかし小夜は非常に嬉しそうにパカパカとガラケーを開閉している。よほど気に入っているのだろう。


「携帯電話は手に入っているのだが……スマートフォンについては、目下おばあ様と交渉中だ」

「そうなんだ」

「ああ、私のネゴシエーションの見せ所だな。おばあ様を口説き落としてみせる」

「口説くの?」


 ふんすふんすと興奮している小夜を見て私は自分のスマートフォンを取り出す。

 そういえば……。


「住所って教えていたっけ?」

「む、恵里衣お姉さんからその話題を振ってくれるのは大変ありがたい。ずっと聞いておきたかったのだ」


 小夜は目を爛々と輝かせ、身を乗り出す。そっか、教えてなかったか。


「住所はね……これ」

「覚えたぞ。恵里衣お姉さん検定合格間違いなしだな!」

「そうかも」


 私は笑いながら小夜の頭を撫でる。ほとんど無意識の行動だった。小夜は少々驚いた表情を浮かべていたが、すぐに目を細め、私の肩に顎を乗せた。


「えへへ……」


 小さな、本当に小さな声だったが、小夜がそう言っているのが聞こえる。私は正座を崩し、胡座をかく。慣れない正座で足が若干痺れていたが……まぁ、何とかなるだろう。小夜の脇を持ち、くるっと反転させる。


「なぬっ」


 小夜はそんな声を上げて戸惑う。私は構わずそのまま胡座の中に小夜を座らせる。


「……なぬっ!?」


 恐らく混乱しているのだろう。小夜は耳まで真っ赤になっている。私はからかい半分愛おしさ半分で小夜を後ろから抱きしめながら、頭を撫でる。


「なんですとぉ!?」


 小夜はそう叫び、身体を硬直させる。

 なんだその声は。


「混乱してるぞ! 恵里衣お姉ちゃん! 私、パニック!!」

「みたいだね」

「みたいだね。違うぞ恵里衣お姉ちゃん!!」


 耳から湯気が出るんじゃないかと言うほど、小夜は顔を真っ赤に染め、ぐるぐると目を回す。こんな小夜、あまり見ることないから、もっとからかいたくなる。


「さーよ」


 私はそう言い、小夜の耳に息を吹きかける。小夜は全身を一瞬震わせ、静止する。何があったのかと小夜の顔を覗き込むと……。


「は、は、は、は」


 若干涙目で顔を真っ赤にし、頬を限界まで膨らませている小夜が居た。

 あぁ、多分これ、怒って……。


「恵里衣お姉ちゃんの破廉恥!! 成敗してやる!! 神妙にお縄につけ!! この外道!! スケコマシ!! ナンパ女!! 粉かけ八方美人!!」


 酷い言われようだ。

 小夜は私の腕から脱出すると、綺麗な前回りをし、ランドセルへと向かう。そこには……。


「……まさか」

「そのまさかだ!! 法の裁きを受けるが良い!!」

「あ、ちょ、それは……!」

「乙女の純情を弄んだ罪だ! 年下と侮ったな!」

「防犯ベルを室内で鳴らしたら……!!」


 そのあと、部屋の中で防犯ベルは暴れに暴れ、私と小夜は揃って朱夜さんのお説教を喰らうこととなった。

 そんな、クリスマスの夜。

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