13
その声を聞いた瞬間、
いつもの悪夢の時と違い、大量の寝汗でパジャマがじっとりと濡れていた。
本能的に感じた恐怖で震える身体を自らの腕で抱きしめる。
その日から
繰り返される悪夢の中、聞こえてくる女性の声から逃げるように
そして、運命の日が訪れた。
漆黒の空間に、初めて
しかし塞ぐことの出来ない左耳が、足音が着実に
足音が近付くにつれて、
「ふふっ」
足音と共に聞こえたかすかな笑い声で、近付いてきているのがあの女性だとわかった。
わかった所で逃げ場などない
(どうしよう……どうしたら……)
怯えて真っ白になっている頭では何も考えることなど出来ない。
やがて足音が止まった。
次の瞬間、誰かが
「ひっ……」
「怖がらないで。ワタシはゼネリア。アナタの名前を教えてちょうだい?」
驚きのあまり、反射的に
眼前に迫っていたのは、真紅の瞳と白銀の髪で輪郭を縁どられた日本人離れした顔立ちをした女性だった。
これが肉体を得たゼネリアと
* * *
「今更翼を出したところで何も変わらないわ!!」
振り下ろされたムチがウリエルへと迫る。
その時、それまで何もなかったはずのウリエルの背中から純白の翼が八枚現れ、身体を守るように包み込んだ。
翼に阻まれたムチはバチィッという鋭い音と共に弾かれる。
盾としての役割を終えた八枚の翼が開かれ、ウリエルの背中で大きく広がる。
それと同時に立ち上がったウリエルの身体中にあった傷は跡形もなく消えている。
「何をしたの!?」
歯噛みしながら吠えるゼネリアにウリエルは不敵な笑みを向ける。
「お前の言う通り、翼を出しただけだが? もっとも天使が翼を出すのは最終手段だ。傷を消し去ることなど造作もない」
天使は通常、翼を出すことを天帝から禁じられている。
翼を内包することによって、持っている膨大なエネルギーの大半を封じているからだ。
本来ならば天帝の許可なく開放することは許されていない。
だが悠長に許可を取っている余裕など今のウリエルにはなく、処分を受ける覚悟で翼を展開していた。
「俺もとっておきを見せてやるよ。本気で使いたくなかったんだが仕方ない。特別に、出血大サービスだ」
「偉そうに……その翼、切り裂いてあげるわ!!」
ウリエルの背中に生える六枚の翼の内、一つに狙いを定めてゼネリアが駆け出す。
(六枚……六枚ですって!?)
目の前にある翼の違和感に気付いた瞬間、ゼネリアの左肩から黒い靄が吹き出す。
慌てて距離を取ろうとするが、数瞬の間にゼネリアの身体には数えきれないほどの裂傷が刻まれていく。
「これが大天使の力だよ。折角のサービスも、どうやら全く眼で追えていない様で、残念だ」
「一体何をした!! ワタシの体に傷を付けるなど、よくも!!」
一瞬の後に攻撃に転じたウリエルが心底残念そうに肩をすくめて見せる。
身体中の裂傷から零れ出す黒い靄で、全身の輪郭が曖昧になり始めているゼネリアが怒りを露わに叫んでいるが、それすらも気にした様子はない。
「剣に形を変えた二枚の翼を振っただけだ。空間すらも斬り裂くこの、絶界の剣をな」
ウリエルの両手には折れそうな程に幅が細い剣が一振りずつ握られている。
月の光を弾いて煌めくその剣には汚れどころか曇り一つ見当たらない。
絶界の剣。
空間すらも切り裂くと言われているその剣の攻撃範囲はウリエルの視界に入っているもの全てである。
その圧倒的な力ゆえに現実世界に影響を及ぼしかねないと危惧され、通常取り出すことはまずないのだ。
それだけゼネリアは強かったといえる。
「この剣を拝めるのは余程の強者だけだ。たとえ偽りの生命だとしても、その強さは誇るといい。さよならだ、悪魔ゼネリア」
目にも止まらぬ速さで一直線に振り下ろされた剣によって、避ける間もなくゼネリアの体が縦半分に斬り裂かれる。
あまりの切れ味に切られたことに気付かなかったゼネリアだったが、剣に込められた浄化の力で崩壊を始めた身体に耐え切れず悲鳴を上げた。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」
暫しの間、ゼネリアの断末魔の叫びが響き渡り、その体が音を立てて無散したのと同時に辺りには耳が痛くなる程の静寂が訪れた。
ウリエルの手から剣が消え、その姿が
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