第三部・第5話(第三部最終話)

   来てくれると思ってた……シーラ…………


   あなたがこれを聞いているのはいつなのかしらね

   すぐに聞いてくれてることを祈りたい

   あなたに伝えなきゃならない

   私はカイズの調査をしていて、辿り着いた真実があるの

   あなたが見た〝緑の光〟の正体

   分からないこともある

   でも私が分かっている範囲で

   あれは人類ではないということ

   何者なのかは分からない

   でも……軍というより国ね……

   国が国民に内緒で

   〝アーカム〟という存在と協定を結んでいるのは事実

   それと緑の光は関係がある

   緑の光を操れる人間の存在は、まだ分からない部分があるみたい

   でも、アーカムを差し置いてその光を手に入れようとした

   アーカムも、そんな人間がいることは知らなかったみたいだしね

   なんだか分からないことが多くて、話していても混乱してくる

   その情報を掴みたくて、休暇にここで調べたんだけど……

   その情報はあなたも知ってるシェリン防衛部長から

   私の不倫相手だったから、あなたも知ってるでしょ


   でも、やっぱり知らないほうが良かったのかもしれない

   アレは関わっちゃいけない……いけなかった…………


   私はもうすぐ殺される


   でも大丈夫

   あなたは最前線に行ける


   目の前で〝彼〟に受理させた

   まあ彼としても、あなたに探られたくないから

   ちょうどいいんでしょうね

   シーラ…………お願いだから手を引いて…………

   あなたを死なせたくない…………

   この話は駐屯地では話せない

   監視はあなたが思っている以上に多いの

   この録音だって聞かれているかもしれない


   このデータはあなたの〝認識証のチップ〟を感知しないと

   開かないようにしておくから


   …………ごめんね…………

   …………先に行ってる…………


   …………大好きだよ…………シーラ…………




 モニター画面に、再生ボタンが現れ、音声データの終了を告げていた。

 その前で立ち尽くすスコラ。

 誰も動けなかった。

 その時、全員のヘルメットにチグの声が聞こえる。

『裏から人が入った──一人だけ────今二階────誰か行ける?』

 ティマが部屋の中を見渡す。

 行けるのは自分しかいない…………。

 そして小さく口を開く。

「私が行く。トレースを続けて」

 ナツメの不安に溢れた目がティマに向けられた。

 ティマはそれに小さく応えた。

「行ってくる。少しだけ頼むよ」

 ティマが部屋を出ると、再び静かになった。

 全てが、分からないことばかりだった。

 スコラにどう声をかけるべきなのかも分からない。

 なぜ電気が通っているのかも分からない。

 なぜ突然コンピュータが動いたのかも分からない。

 音声の女性が誰なのかも分からない。

 唯一分かるのは、想定していなかった事態が起こっているということだけ。

 そしてスコラの口が開く。

「…………リリ……」

「──え?」

 すぐに反応したのはナツメ。

「リリって……確か…………スコラ?」

「うん…………リリ…………大事な人だったんだ…………」





『階段で三階に移動した』

「分かった。私は五階に降りたところ」

『見えてるよ。慎重にね。でもレーダーに表示されてる色は青だからラカニエの軍人であることは間違いない』

 そのチグの言葉に幾らかの安堵はしつつも、敵か味方の判断がついていない限りは緊張は緩められない。

 ティマは四階に降りると、そのまま三階への階段で耳を澄ました。

 極力戦闘行為は避けたい。しかも今回の作戦は何が起こるか予測が出来ない。

 一人でいるということは、あくまで生き残りの兵士なのだろう。

 唯一まともに残ったこのビルで誰かが生きていてもおかしくはない。

 防衛省の古いビル。緊急用の発電機や防災用の保存食はあるはずだ。

 音がする。

 ドアの音だ。

 階段に来る様子はない。

 拠点は三階?

 ティマは一歩づつ階段を降りていく。

 もちろん音は立てない。

 階段から三階の長い廊下へ。

 しかし、静まりかえった広い廊下で、小さな小石がティマの靴の裏で思った以上の音を立てた。

 そのままティマは足を止め、相手の動きを待つ。

 やがて、声がする。

「誰だ!」

 掠れた男の声。年齢的に五〇は過ぎていないと思えた。

「その動きは兵士だな。ラカニエの兵士なら所属と名前を────私は防衛省防衛部長のシェリン・ガーディンだ」

 ──シェリン…………さっきの…………

 男の声からは決して交戦的な印象は感じない。

 そして、ティマが動く。

 姿勢はそのまま。

「第六強襲部隊──ティマ・シティ中尉です」

 ゆっくりと、男はドアの一つを開き、姿を現した。

 白髪混じりの髪はだいぶボサボサになり、無精髭も長い。ゆるく着込んだ印象の軍服は新しい物ではない。

「強襲部隊……生き残っていたのか…………入ってくれ」

 ティマは銃口を下げ、警戒しつつも部屋に招かれた。

 小ぶりな会議室のような殺風景な部屋だった。

 ドアの所に立つティマにシェリンが続ける。

「安心しろ。私は一人だ」

 そのまま大きなソファーに体を倒す。

「よく生き残っていたな。強襲部隊ということは前線ではないのか?」

「はい。常に最前線でした」

「そうか…………現在の状況は把握出来ているのか?」

「はい……防衛部長が想像するよりは」

「そうか……私はあの空爆からずっと一人だ。しばらく声を出すこともなかったが、声というものは使わないと枯れてしまうものだな」

 そう言ってシェリンは煙草に火をつけた。軍の要職にいた人間が使うようなライターではなかった。おそらくどこかで拾ったものだろう。安物の使い捨てライターだ。

 シェリンは大きく煙を吐き出して続ける。

「無様なものだ……この街では誰も生き残ってなんかいない…………今は発電機も燃料が残っているからいいが…………その内、食料だって尽きる。もうすぐ冬だ。寒くなったら生き残れないだろう…………」

「クーデターがあったと聞きました」

「ああ…………あいつに裏切られるとはな…………この国はもう終わりだよ。他の国に亡命したほうがいい」

「いえ、他の国も同じでした」

「そうか…………なら、私も家族と一緒に空爆で死んだほうが良かったのかもしれんな」

 そう呟くように語るシェリンは、物腰は柔らかく感じられる。

 そのシェリンが続ける。

「毎日、誰かいないかと外に出て回るんだ…………でも一人も見つからない……もう諦めていた…………お前も一人か?」

「いえ、仲間が数名」

「そうか…………精々大事にするがいい……食料が欲しかったら持っていってくれ…………私はもう歳だ…………もう疲れたよ…………」

「覚えていますか?」

 すると、初めてシェリンはティマの目を見た。

 そのティマが続ける。

「……リリという兵士を……覚えていますか?」

 しばらく、二人は目を合わせ、やがてシェリンが口を開く。

「さあ…………忘れたよ…………」

「あなたは…………〝アーカム〟の何を知っていたの⁉︎」

 ティマは聞かずにはいられなかった。

 言葉が溢れ出す。

 シェリンは体を起こし、前のめりに鋭い目付きになる。

「久しぶりに聞いたな……何を聞きたい?」

「〝アーカム〟について知っていることを総て…………」

「残念ながら俺も詳しくは知らない…………結局アレがなんなのか……俺にも分からなかった。ただ…………〝神〟のような存在なんだと思っていた……」

「そんなことを聞きたいわけじゃない」

「分からないんだ! 俺も!」

「リリを殺すように指示を出したのは────!」

「仕方なかったんだ……関わってはいけないところにあいつは手を出した…………仕方なかったんだ…………せめてもの償いと思って、あいつの望みは叶えてやったつもりだ」

 ティマは再びライフルを構えた。

「来なさい」

 




 廊下に響く足音。

 スコラ以外全員が一斉にドアに銃口を向けた。

「ティマ?」

 不安そうに呟いたのはカル。

 ナツメが小声で応える。

「いや…………もう一人いる」

 ナツメはスコラに目を向ける。

 モニターの前に張り付いたまま、スコラは動かない。ただ立ち尽くしていた。

 近くにはレナがいる。自動小銃を構えながらも、その目はスコラへ。

 ──大丈夫……一人は間違いなくティマ…………

 足音がドアの向こうで止まる。

 静かに開いたドアの向こうに現れたのはシェリン。

 その後ろにはライフルを構えたティマがいる。

『ティマ⁉︎』

 ヒーナの声だった。

『さっきの侵入者はどうしたの? 報告して』

 静かに応えるティマ。

「ごめん……後にして…………大丈夫だから」

 シェリンがゆっくりと部屋の中へ。

 そして口を開く。

「思ったよりは生き残っているんだな。私は防衛省防衛部長のシェリン・ガーディンだ。この部屋に何か用があるのか?」

 ナツメが眉間に皺を寄せる。

 ──どうして……よりによって…………

 その背後から、目を細めたティマの低い声が響いた。

「そんなところ…………〝アーカム〟のことを知りたくてね」

「どうしてお前たちはアーカムのことなんか…………」

 部屋を見渡しながらそう言ったシェリンが、アイバを視線に捉えた所で止まる。

「お前は……生きていたのか…………」

 アイバは表情を変えずに応えた。

「誰だ? 顔だけは覚えてる」

 そしてティマ。

「その程度さ、この男は…………スコラ、こいつがシェリンだ。大したことは知らない…………私たちのほうが詳しそうだ」

 するとナツメが向けていた銃口を外し、自動小銃を右肩に乗せて口を開いた。

「なるほどね……つまらない男だ」

 ──分かったよティマ……私が押さえる…………

 しかし次のスコラの声に身を硬くする。


「──リリを殺したのはあなた?」


 空気が張り詰めた。

 外からの雨の音も聞こえない。

 モニターの明かりに照らされたままのスコラを見ていたティマは、ナツメに目を配る。

 ナツメもそれに応えるかのように、スコラからティマへ。


「応えてよ…………大事な人だったの…………」


 続くスコラの声。

 ナツメがその動きに注視する。

 そこに、シェリンの呟くような声。

「…………シーラか…………」

「…………殺したの…………?」

「仕方なかったんだ! だから! だからリリの要望通りにお前を────」


「…………殺したのね…………」


 スコラの右手が上がる。

 その姿が、一瞬、ティマとナツメにはシーラの姿に見えた────。

 その拳銃はシェリンに────。

 ナツメの足が動く。

 そして、シェリンの体が弾けた。

 目の前から消えたシェリンと、突然現れた人影に、ティマは反射的に銃口を上へ。

 スコラに向けていた足を止めるナツメ。

 銃声に振り返る。

 そこには、床に倒れるシェリンと、その喉を踏みつけるレナ。

 自動小銃の銃口は頭へ。

 シェリンが言葉を捻り出した。

「…………悪魔か…………」

 誰も、止めようとはしない。

 そして、レナの声。

「褒め言葉?」

 銃声は二発だけ。

 薬莢の落ちる音がやけに大きく聞こえる。

 瞬時に、シェリンの頭の半分が床で潰れた。

 瞬時に広がった赤黒い液体が、少しずつ広がっていく。

 その光景を見ながら、レナは動かない。

 時間を忘れた。

 誰もが、レナを見ようとはしなかった。

 そして、レナに近付く影。

 それは、優しくレナの体を包み込んだ。

 ──スコラ…………

「……ごめん…………」

 それは悔しさか、スコラの目からは涙が溢れる。

「…………ごめんね…………ごめん…………」

 そして、何度も繰り返されるスコラの声。

 ──私に撃たせないために…………

 ──レナにまた引き金を引かせた…………

 ──こんなバカなことって…………

 そこにレナの声。

「スコラ…………」

 その声に驚いたスコラは、涙も拭わずに顔を上げた。

 続けるレナ。

「あなたは…………こんな奴のために手を汚す必要はないよ…………私が代わりに…………」

「やめてよ‼︎」

 スコラの声が響いていた。

「あなたが私の代わり⁉︎ 笑わせないで! 私みたいになんかならなくていい‼︎ なるな‼︎ …………お願いだから…………ならないで…………」

 レナに抱きつくように崩れ落ちるスコラに、レナは立ったまま口だけを動かす。

「……ごめん…………ごめん…………わたし…………ごめん…………」

 涙が首筋を滑り落ちていく。

 そこに、ヒーナの声が被さった。

『来たよ──アーカムだ』

「分かった──」

 そのティマは少し間を開け、そして声を張り上げる。

「みんな! アーカムだ。時間はない。最後の地下室へ行こう」





 雨は更に強くなり、装甲車の周りのコンクリートにも雨水の層を作り出していた。

「一度全員戻って。まだ距離はある」

 マイクに向かってヒーナは声を上げる。

 すると、チグの声。

「あれ? データが…………まずい!」

「なに⁉︎」

「一機だけ来る!」

「私は上に行く!」

 ヒーナは屋根に登った。重機関銃のシートに腰を落としてベルトを固定しようとした次の瞬間、目の前にアーカムのドローンは現れた。

 チグの叫び声。

「なんで⁉︎」

 シートに体を固定することも出来ないままに、ヒーナは引き金を引いていた。

 重厚な音と薬莢の奏でる甲高い音が続くが、僅かにアーカムのスピードを緩めるだけ。

 距離はおよそ一〇〇メートル。

 その時、チグの背後でマーシが動いた。

 右の機銃座に座ると、引き金を引く。

 拳銃とは違う重い反動が全身を震わせた。そのせいで照準が定まらない。

「マーシ⁉︎」

 背後からのチグの言葉に、マーシが呟く。

「──私だって────!」

 その騒動の中、キラが装甲車を降りたことには誰も気が付かなかった。

 キラは一言も発さずに、真っ直ぐ建物の奥に進んでいく。

 そのまま、地下への階段を降りていった。

 重機関銃の音に慌ててティマたちが駆けつけた時、装甲車の横には潰れて動かなくなったアーカムが一機。

 ずぶ濡れのヒーナが後ろを振り返りながら叫ぶ。

「全員乗って! さっきは一機だけだった。数は多いけど他の奴らはまだ距離がある。そうでしょチグ」

「大丈夫。ここを中心に半径一〇キロの円陣で待機してる。一気に来る気だよ」

「数は?」

 質問したのはティマ。

 チグはすぐに応える。

「聞かないほうがいいよ。今までで最大」

 ティマはそれを聞くと、口元に笑みを浮かべた。

「みんなは装甲車で迎え打って。突破口を作ったら私を待たずに行っていい」

「ダメだティマ! 一度撤退する。数が多すぎる」

 強く声を上げたヒーナにティマが返す。

「ここまで来たんだ──」

「だからなんなの! みんなの命に次はないのよ‼︎」

「あれ?」

 マーシの声だった。

「キラは? ────キラがいない」

 全員が辺りを見渡すが、影すら見当たらない。

「そういうことか…………」

 口を開いたのはティマ。

「さっきのは囮だよ……だから一機だけなんだ…………地下だ。地下にいる。絶対に」

「私も行く」

 手を上げたのはスコラだった。

「何があるか分からない。あなたを死なせたらシーラに顔見せ出来ない」

 そしてもう一人。

「私も行く」

 アイバだった。

 そして手を上げかけたナツメをティマが制する。

「当然ナツメはダメだ。足手纏いはいらない」

 今にも泣き出しそうなナツメに、更にティマが続ける。

「あんたは…………缶詰でも温めて待っててよ」

「レナ」

 名前を呼ばれたレナが顔を上げた先にはスコラ。

「あなたには、もう人は殺させない…………私が守るから。今だけ耐えて。その代わり…………人間以外なら好きにぶっ放していいから」

 レナが大きく頷く。

 そしてヒーナの声。

「動きがあればすぐに伝える。帰ってきなさいよ」

 その目を見ながら、ティマが口元に笑みを浮かべて応えた。

「頼むよ、大統領」

 ティマは廊下の奥へと走る。

 スコラとアイバも続いた。





 三人は地下への階段の前で足を止める。

 他の階以上に薄暗い。

 発電機の電気がここまで届いているのだろう。足元の非常灯が点々と階段から廊下に続いていた。

 スコラが小声で口を開く。

「人がいる感じは?」

「ないね」

 即答するティマの後ろには自動小銃を持ったアイバ。体の小さいアイバにはやはり重いのか、何度も持ち直していた。

 廊下に降りると、外の音も聞こえないくらいに静かな空気。しかし僅かに階段の向こうから雨の音。

 そして突き当たりのドア。

 一〇〇メートル程先のそのドアから、緑の光が溢れている。

 スコラが皮肉めいた口調で呟いた。

「分かりやすいこと」

「あんたが行った部屋はあそこ?」

 ティマのその質問に応えるアイバ。

「覚えてない。でも、あそこに行くんだろ?」

「行くさ。呼ばれてるみたいだからね」

 そしてドアの前。

 溢れ出す緑の光が眩しく感じられた。

 スコラがドアに掌をかざして呟く。

「熱はない」

 ティマがノブを下げると、それは思ったよりも分厚い扉だった。

 三メートル程の狭い廊下と、更にその先にあるドア。その狭い空間ですら緑に染める強い光がそのドアから溢れ出している。

 そのドアは僅かに開いていた。

 そしてドアを開くと、明るい空間が広がる。

 まるで巨大な球体の中。

 全てが緑色に染まってしまったかのようなその空間の中心に、キラが浮かんでいた。

 水中にでも浮かんでいるように、両腕を僅かに広げ、目を閉じ、静かに浮かんでいた。

 そして聞こえるキラの声。


「……待ってたよ…………」


 呆然とするティマのスコラの間から顔を出すアイバ。

 そのまま前へ────。

 ティマが気が付いた時、すでにアイバの体は空中に浮いていた。

 そのままキラのいる中心へ動き出す。

 アイバはすぐに振り返ると口を開いた。

「ティマ…………一緒に行こう…………」

 ティマは自分の体が浮いていることに気が付いた。

 そして少しずつ前へ…………。

 目の前のアイバが手を伸ばす。

 慣れないその感覚に、思わずその手を取るティマ。

 しかし、後ろから左手を掴む手────スコラだった。

「ティマ‼︎」

 そこにアイバの声が重なる。


「行くぞ。お前は基幹になる」


 冷静でいられるはずがなかった。

 何が起こるか分からないとは思っていた。

 それでも想像の範囲を超えることが起きていた。

 そして、ティマはアイバの手を離す。

「ティマ‼︎」

 叫ぶアイバ。

 その姿が少しずつキラの元へ。

 スコラが手を引き、ティマの体がスコラに包まれた。

 そして、二人の目の前で、キラとアイバの姿が消えていく。

 当然、信じられるはずのない光景だった。

 そして、耳に届くチグの声。

『来たよ‼︎ 戻って‼︎』

 気が付くと、緑の光はない。

 巨大な丸い空間。

 薄暗い。

 光の余韻が残っているのだろうか。少しずつ暗くなっていく。

 微かに外の雨の音も聞こえる。

 スコラが呟いた。

「ティマ……行くよ」

「うん」

 二人で走り始める。

 ティマはスコラの手を離さなかった。

 ──ありがとう…………スコラ……………………





 すでにエンジンのかかった装甲車にティマとスコラが転がり込む。

 右銃座にレナ。

 左銃座にはカル。

 ナツメは後部の重口径ライフルに張り付く。

 そのナツメが最初に口を開いた。

「アイバと……キラは…………」

 息を切らしたティマが応える。

「……分からない…………あっちに行ったのかもしれない…………」

「あっちって────」

「……分からないんだ! 何も分からない!」

 その空気を切るのは運転席からのヒーナの声。

「スコラ、上は開けておいたよ」

 スコラは黙って大きく頷く。

 そして続いたのはマーシの声。

「キラは? キラはどこ?」

 屋根のサンルーフに手をかけたスコラの動きが止まる。

「キラはどうしたの? どこ?」

 ナツメの横でライフルを抱えたティマも視線を落としたまま。

「キラ⁉︎」

 立ち上がり、左銃座横から装甲車を出ようとするマーシの腕をスコラが掴んでいた。

 そのまま口を開いた。

「……やめて…………お願いだから…………」

 ティマがそれに繋げる。

「あの子はもう…………人間じゃない────」

「あなただって────!」

 その声をスコラが遮った。

 スコラの掌が、マーシの頬で大きな音を立てる。

 まるで時が止まったかのような空気が流れ、マーシだけが体を震わせる。

 そして、スコラが口を開いた。

「あの二人は…………あっちを選んだ…………ティマは私たちを選んだ…………あなたは?」

 床に崩れ落ちたマーシの背中に手を添えたのはカルだった。

「私たちには……ここしかないよ…………」

 そして、チグの声。

「少しずつ近づいてる……三キロ……ここを目指してるよ」

 それに応えるヒーナの声。

「分かった。…………ティマ……強行突破でいいね?」

 ティマが立ち上がる。

 ゆっくりと応えた。

「いいよ…………生き残ろう…………」

「早い────もう一キロまで────!」

 チグの声に空気が張り詰める。

「行こう」

 ヒーナがそう言ってアクセルを踏み込む。

 出来るだけ防衛省ビルから遠くへ。

 出来るだけ早く突破口を作る。

 それしか生き残る道はないように思えた。

「え? 何でこんな時に──」

 チグが慌ててラップトップを覗き込む。

「チグ、どうしたの?」

 声をかけたティマに早口になるチグ。

「基地から持ってきたデータが開けた──これって、アイバの実験データ…………」

「アイバの⁉︎」

 ティマもモニターを覗き込んだ。

 チグが続ける。

「そんな…………全身を開いてる…………頭まで…………」

 ナツメの呟きが聞こえた。

「……あんな子供に…………酷すぎる…………」

 続けてティマが口を開いた。

「アイバは終戦によって救われたのか…………カイズを恨んでた理由が分かったよ」

「待って」

 チグだった。

「これ──そうか…………端末のデータだ…………基地にあったヤツ…………」

「貴重な資料だな……何か分かるの?」

「…………んー、しっかり見ないと分からないけど、あの基地の防衛システムに直結してたみたいだね…………」

「残念ながら、今調べてる時間はないか…………後で頼むよチグ」

 そして屋根に登ったスコラに続くようにサンルーフに手をかけたティマが、チグに話しかける。

「チグ────あの〝端末〟貸してもらえる?」

「え? うん……」

 チグは足元に置いたバックパックからアーカムの端末を取り出すと、ティマに手渡した。

 ティマはそれを見つめながら呟くように。

「アイバと一緒に行動してから…………一度も光らなかったね」

「…………うん」

「また……こいつが助けてくれたらいいんだけど…………」

 ティマは左の胸ポケットに端末を入れると、そのままサンルーフに両手をかける。

 そして一言だけ。

「後で返すよ」





「もうすぐ会敵‼︎」

 チグの声に緊張と共に興奮が過ぎる。

 屋根の上のティマは重機関銃のスコラと背中合わせのまま口を開く。

「重機関銃の火力を前方に集中させて。後ろは任せてくれていいから」

「最高だね」

 スコラの声に迷いはない。

 その声が続く。

「仲良くいこう……お互い弱いからさ」

「いいね」

 雨雲で暗かった空が、更に暗闇に包まれる。

 そして周囲の影は、無数のアーカムの姿に。

 スコラが引き金を引く。

 轟音と共に前方で歪む影。

 それが合図だったかのように、左右の銃座も銃口を鳴らした。

 装甲車がアーカムのドローンを避けて大きく蛇行。

 それに追随するスコラの重機関銃が唸った。

 ティマの動きは早い。

 普通よりも視界が広いのではないかとスコラは感じる。背中越しでもそれを感じられるくらいにティマの存在は大きい。

 スコラの真横に突然現れたアーカムすらもティマはライフルで弾き返す。

 そしてヒーナの叫び声が響いた。

「多すぎるよ! チグ──抜け道は⁉︎」

「ないよ! そんなの!」

 チグの叫び声は悲痛なものにしか感じられない。

 ヒーナが続けた。

「スピード出せない‼︎ スコラ‼︎ 前開けて‼︎」

 そこにティマが叫ぶ。

「ナツメ! 後ろ任せるよ‼︎」

「お安い御用だ‼︎」

 ナツメの明るい声に、一瞬だけ、全員が気持ちを落ち着ける。

 片腕のナツメをバックアップしていたのはマーシだった。ナツメの左に寄り添い、ナツメの体とライフルを繋ぐ。

 想像していた以上の反動が全身を襲い、何度もナツメから離れそうになるが、その度にマーシは両手に力を込め直す。

 ──私が役に立てるのは、これくらい…………

 スコラの重機関銃にプラスしてティマのライフル────それでも前方の形勢は簡単には変わらない。

 直後、ティマの右の視界に、光の影が落ちた。

 それは右銃座へ────。

「レーザーか────!」

 ティマが叫んだ時には、右銃座の銃身がレナの目の前から消えていた。

 銃座に固定されているシートが崩れ始め、レナの体が中に浮く────一瞬のことに意識を奪われるレナの手を掴んだのはマーシだった。

 衝撃と共に装甲車が大きく浮く。

「レナは──⁉︎」

 ヒーナの声にチグが即答する。

「大丈夫! マーシが掴んだ!」

 窮地に追い込まれているはず。

 しかし、一つ一つがなぜか全員の気持ちを和らげる。

 ヒーナが続けた。

「レナ! マーシ! まだいけるなら右から自動小銃で!」

 誰にも考える余裕はない。

 レナは素早く壁から自動小銃を外すと、すぐに引き金を引き始める。

 マーシが自動小銃を手にナツメに振り返るが、そのマーシにナツメは叫んでいた。

「私は大丈夫! 腕の一本くらいくれてやるよ!」

「一本だけにしておいて」

 ティマだった。

「抱いてもらえなくなると困る」

「戦闘中に惚気ないでよ」

 ナツメはそう言いながら引き金を引いた。

 その目の前でアーカムが砕ける。

 少しよろけながらもナツメは大きく体勢は崩さない。しかし直後のナツメの溜息は薬莢の落ちる音にかき消された。

 しかし、再びライフルを抱いたナツメの視線の先────。

 防衛省ビルからはまだそれほど離れていない。

 しかしその方向に〝緑の光〟が漏れる。

 空を埋め尽くすようなアーカムの大群の隙間に、間違いなくあの光が溢れていた。

 ナツメが叫ぶ。

「ティマ‼︎ あれ‼︎」

 ティマは視界の端に確認すると、僅かに見えるその光に目を見開き、呟いた。

「……キラ…………」

 その声を聞いたナツメが更に叫ぶ。

「キラだ! あの光の中‼︎ 二つあるよ‼︎」

 縦に長く見えていた緑の光は、二つの球体だった。

 その上の球体には小さくキラの姿────。

「下は⁉︎ アイバなの⁉︎」

 ヒーナの叫びにナツメはすぐに応える。

「分からない! 目の前の奴らが邪魔すぎて!」

 そしてライフルの引き金を引く。

 全員が同じ心境だった。

 目の前のアーカムの対処に一瞬たりとも気を抜けるはずがない。

 そして蛇行を繰り返す装甲車の、速度の緩む一瞬────マーシが飛び降りた。

「マーシ‼︎」

 ナツメが叫ぶその先。

 一気にマーシとの距離が開く。

 走る装甲車から飛び降りて無事なわけはない。

 兵士ならある程度は対処出来るだろう。

 しかしマーシにそんな経験はない。

 激しく足首を挫いて倒れ込む。

 それでも立ち上がった。

 頭の中はキラとアイバのことだけ。

 装甲車がドリフトで一八〇度回転すると、全員の体が大きく流された。

 その動きが止まるより早くヒーナが叫ぶ。

「戻る‼︎」

 誰にも異論はない。

 生き残るだけが目的ではなくなっていた。

「大好きだよヒーナ!」

 ナツメが叫ぶとヒーナも返す。

「舌噛むよ!」

「先に言って!」

 しかし簡単にはマーシの所までは近付けない。間には数え切れないほどのアーカムの群れ。

 マーシが生きている自信すら誰にも持てないまま、可能性に賭けるしかなかった。

「チグ! 場所は⁉︎」

 ヒーナが再び叫ぶ。

「一〇時! 距離が縮まらない!」


 マーシはまだ生きていた。

 目の前のアーカムに自動小銃を向けるが、その右手は自動小銃と共に消える。

 左手で自動小銃を拾うと、今度は左腕と共に自動小銃が消える。


 そして、レーザーの光が装甲車の左銃座を砕いた。

 反動で大きく左側を浮かせて弾かれ、装甲車はマーシの位置を見失う。

 銃座を砕かれたカルの体も弾き出される。

 直後、カルは走っていた。

「マーシ‼︎」

 手にしているのは拳銃だけ。

 もちろんアーカムに対抗出来るはずもない。

 カルにもそれは分かっていた。


 そして、辺りに響く声。


   …………さあ…………

   …………一緒に行きましょう…………

   …………これからです…………

   …………もう一度…………


 間違いない。

 キラの声。


 ティマの体が、緑に光り始める。

 横で驚愕の表情を浮かべるスコラをよそに、ティマの左胸のポケットから更に強い緑の光が溢れ出す。

 それは瞬く間に巨大な球体となり、装甲車全体を包んだ。

 ティマが叫ぶ。

「今だ‼︎ ヒーナ‼︎」

 装甲車が一気に加速した。

 周囲のアーカムが砕けていく。

 そして、空を覆っていたアーカムの群れが割れる。

 二つの球体が見えた。

 そこには間違いなく、キラとアイバ────。


 その二人の姿を、マーシは倒れ込んだまま見上げていた。

 そこに駆け寄るカル。

 すでに左足は砕かれ、おそらく痛みも感じないだろう。

 カルは覆い被さるようにしてマーシを仰向けにするが、その視線はキラとアイバへ。

「マーシ…………」

 カルの声は柔らかい。

「……あの子たちが…………生きてる…………」

 マーシは呟くように、そして大粒の涙を流していた。

 ボロボロの体には、もはや震えすら無い。

 そしてマーシは、カルの目を見て口を開く。

「……諦めないでくれて…………ありがとう…………」

 カルはマーシの体を救うように抱き上げていた。


 目の前に二人の姿が現れる。

「ヒーナ‼︎」

 ティマが声を上げた直後だった。

 二人の姿を大きな光の柱が包む。

 瞬時に巻き起こる爆風に、ヒーナは大きくハンドルを切った。。

 それは後部ライフルのナツメからも見えていた。大きく首を回したまま、微動だに出来ない。

 そして、隣のチグも同じだった。

 その光景を屋根の上から見ていたスコラとティマですら、いつの間にか装甲車が停止していたことにすら気が付けないでいた。

 開け放たれていた左のドアからレナが体を乗り出す。

「……どうして…………」

 緑の光に包まれた装甲車にはアーカムは近付けない。

 時が止まったような空間。

 アーカムが遮っていた雨も、いつの間にか無い。

「なあ…………」

 それはハンドルを握ったままのヒーナの声。

「もしもこれが誰かの夢だったら…………許せる…………?」

 少し間を開けて、ナツメの声がした。

「ズルいよ……そんなの……………………納得なんか出来るか」


 そして響く、叫び声。

 辺りを埋め尽くす。

 キラの叫び声。


 ティマが立ち上がっていた。


 何かが頭に浮かぶ。

 何かは分からない。

 まるでそれは、感情の塊。


 ティマはいつの間にか呟いていた。

「中途半端に感情だけもらってくるから…………そうか…………分かったよ…………でも、遠慮するよ。子守りは苦手だ…………」

「ティマ?」

 横のスコラが声をかけると、ティマが叫ぶ。

「ヒーナ‼︎ 突っ込め‼︎」

 装甲車が急発進した。

 まるで待っていたかのように。

 キラとアイバに向かって。


 キラの叫びは続き、装甲車に呼応するように、大量のアーカムがキラに向かう。

 やがてその群れは緑の光をも埋め尽くしていた。

 しばらく続く振動。

 音にならない振動が空気を震わせていた。

 しだいに見えなくなっていく緑の光。

 あまりにも集まりすぎたアーカムの群れに、装甲車が停まる。

 しかしアーカムは止まらない。

 次々と辺りを埋め尽くし、光の中へ。




 そして、静かになった。

 そして、全てのアーカムが消えていた。




 静かになったビルの跡地は、まるで爆心地。

 緑の光はどこにもない。

 巨大な穴があるだけだ。

 装甲車がゆっくりとその穴へ近付いた。

 地下フロアの痕跡すらない。

 煙すらも上がっていない不思議で壮大な光景に、全員が息を飲む。

 その中心の人影に最初に気が付いたのはナツメだった。

 装甲車の横から身を乗り出し、目を凝らす。

「アイバ!」

 全員が目を見開いた。

 ──生きてた…………

 ナツメが穴を滑るように駆け降りていく。

 ティマも屋根から飛び降りていた。

 穴の中心で立ち尽くすアイバを、ナツメが抱きしめる。

「……よかった……生きててくれて…………」

 呆然としながらも、近付くティマの姿を見ると、アイバの表情が綻んだ。

 ティマの表情は柔らかい。

 最初に口を開いたのはアイバだった。

「なんか……変な感じがするんだ…………」

 僅かに怯えたような印象は気のせいだろうか。

 そのせいか、ティマは笑顔で返した。

「すぐに慣れるよ。気持ちいいだろ…………感情って…………少し頼りないけど」

 驚いたようなアイバの表情に、ティマは幼い頃を思い出していた。

 ──良かった……アイバも生きていける…………

 ──少し辛くても…………

 ──……みんな一緒だよ…………


 装甲車で複雑な気持ちを押し殺していたのはレナだった。

 ──どうして私が生き残ってるの…………

 装甲車の奥で膝を抱え、見つめる床にも光は見えない。

 レナは大事なものを見失っていた。

 目の前で目まぐるしく繰り広げられた光景。

 何が起こっていたのかなど理解出来るはずもない。

 確実に理解できたのは、カルとマーシを失ったことだけ。

 そのレナの手を、誰かがそっと包んだ。

 レナが顔を上げた先にあるのは、穏やかな表情のスコラ。

 レナの感情が溢れていく。

「どうして?」

 目からは自然と涙が溢れる。

「どうして? スコラ……どうして私は生きてるの?」

 それに返すスコラの声は柔らかい。

「生きてていいんだよ」

「……どうして?」

「生きなきゃダメなの」

「どうしてよ‼︎ 何人も殺したのに‼︎ 私が二人の代わりに────」

 レナの声が止まる。

 レナの体を、スコラが両手で大きく包み込んでいた。

「…………あなたは生きるの。私が死なせない。私のために生きて」

 その二人を見つめる面々の中には、装甲車に戻ったばかりのティマたち三人もいた。

 顔を上げたスコラは、ティマの姿に、僅かに笑みを浮かべる。

「さっき──」

 軽く体を起こすようにしながら、スコラが続ける。

「なんだったの? キラ?」

「うん……イメージみたいなものかな…………頭に浮かんだ…………」

「後でみんなに聞かせてくれる?」

「そうだね……時間はまだありそうだ」

「楽しみにしてるよ…………キラの話……」

 そこに挟まるのはチグ。

 ティマの顔をまじまじと眺めながら。

「ねえティマ…………後でその体を調べさせて欲しいんだけど」

「意外といやらしい奴だな。人体実験ならアイバでやってくれ」

「それもアリか」

 チグはナツメに抱きつかれたままのアイバに目をやる。

 それに気が付いたアイバが声を上げた。

「待て、同じバケモノならティマだって──」

 そこにティマを見ながらナツメ。

「そっか、神様の生き残りだ」

 ティマは笑みを浮かべながら。

「まあ……かもね」

「でもごめん。缶詰温めるの忘れてた」

「離婚だ」

「ヤダ!」

 そしてティマは、ナツメを無視して運転席に顔を出した。

 シートに体を沈めるようにするヒーナがいる。

 そのヒーナにティマが声をかけた。

「お疲れ様……信じられないような光景にはもう慣れた?」

「だいぶ間から慣れてるよ…………アイバは? さっきのこと覚えてるの?」

「地下室に行った所までね」

「そっか…………」

 ヒーナは溜息をついてから続けた。

「結局……今回も何も分からなかったね…………」

「神様の考えることなんて…………そんなものなのかもね…………でも、いつかチャンスはあるよ…………」

「さっさと終わりにしたいけど」

「もう出る?」

「そうだね。曇り空のままだ。暗くなるのは早いよ。陽が差すのは…………もう少し日数がかかりそうだ。今夜の寝床を決めないと」

「分かった。行こう」

 そして、運転席からヒーナの声。

「よし。出発するよ。一応警戒モードで。チグ──今夜の寝床を探して」

「任せてー」

 スコラが上に登ると、すぐについてきたのはティマだった。

「横の機銃がないからさ、上から二人で警戒したほうが間違いないでしょ」

 そう言うと、ティマはスコラのシートに背中を当てたままライフルの弾倉を交換する。

 スコラは重機関銃のレバーを引いて駆動を確認すると、口を開いた。

「生き残っちゃったね…………」

「それでいいんでしょ? あんたがあの世に行ったら、隣の二人が寂しがるよ」

 スコラは胸に手を添える。

 そこには三人分の認識証。

 スコラの笑顔が、ティマの頭に浮かんでいた。




   これは、葡萄の物語

   枯れたと思われていた葡萄畑の物語


   葡萄の木は枯れてはいませんでした

   そして、一つ一つは小さな葡萄の粒

   でも、みんないつも一緒でした

   しかし、いつかバラバラになってしまったのでした

   いつそうなったのか、誰にもわかりません

   広く、新しい世界にふりまかれてしまいました


   みんな、とても心配しました

   さがしたかったのです

   でも、うすい緑の皮がなくなってしまったのでした

   皮がなくなってしまうと、葡萄はとても弱いのです

   でもその中の種は、とても大きくなりました

   とっても時間がかかったけど、とても大きくなりました

   今なら、みんなを探しにいけるかもしれません


   さあ、一緒にいきましょう

   もう一度、たくさんの葡萄畑をつくるのです








〜 第三部・完 〜

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