生徒会長とアツアツデート!?

 車は『ザザシティ浜松』を目指していた。その商業施設内に映画館がある。略して『ザザ』へ行くのは久しぶりだ。


「会長は、浜松駅周辺はよく行くんです?」

「ほぼ立ち寄らないですね。なので、今日はとっても楽しみなんです。デートですから、それなりに御粧おめかしもしたんです」



 今の会長は――いや、比屋定先輩は、それはそれは可愛らしい清楚せいそなお嬢様ワンピースに身を包んでいた。



 上は純白のブラウス。下はフリル付の黒色のスカート。それと高級感のあるパンプス。


 俺とした事が、車に乗り込む前に会長の服装を褒めるべきだった……! それだけで青春アオハルポイントが劇的に変わっただろうに。


 俺的青春アオハルポイント『-30』。

 でも、会長が頭を俺の肩に預けてくれているので……『+100』だな。尚、これはギャルゲーでいう好感度・・・みたいなものだ。――なんて、緊張を紛らわす為に数値化してみただけなんだが。


「会長、キモかったらすみません。その服、すっごく似合っていますよ」

「いえ、キモくなんてありません。それに、今日だけは『会長』ではなく……すずと名前で呼んで欲しいのです」


「いきなりハードル高いっすね。う~ん……」

「この前は呼んでくれたではありませんか」



 この前? いつだっけ……。



「ゲームの時です」

「ああ! でもあれはゲームだったので……」



「えっ、スズってば『Excaliburエクスカリバー Onlineオンライン』をプレイしていたの! 言ってくれれば育成手伝うのに~」



 忘れていたが、遥さんもMMORPGをプレイしている。しかもギルドマスターだ。



「てか、遥さんって会長……いや、比屋定さんを誘ってなかったんですね」

「ま~、普段は忙しいからね。あと、スズは無趣味の主張は激しいから」



 納得。あれだけ口癖のように言われたら誘い辛いわな。けど、弟から勧められると色々趣味をやり始めてみるようだけど。今回のMMORPG初プレイも弟の影響だと言っていた。本当に、どんな弟やらな。



「姉様。私は事実、無趣味なんです」

「あー、はいはい。そうね、スズは昔から熱中できるのって投資くらいだものね。でも、今はちょっと違うのかな」


「そうかもしれません」


 ――と、なんだか含みを持たせて俺を見る比屋定さん。それから俺はずっと比屋定さんから見つめられていた。



 ◆



 ザザシティ浜松前。

 雑踏ざっとうも増え、活気にあふれていた。大きな建物に囲まれている交差点よりも更に前で停車した。



「では、行ってきます。姉様」

「まって、スズ。帰りはどうする? 迎えにくる?」

「いえ、帰りは交通機関を使います」

「分かったわ。じゃあ、神白くんをバッチリ射止めるのよ~」


 遥さんめ、俺の前で堂々と言うとか。

 まあ、デートみたいなものだけどさ。


「遥さん、またそのうち」

「うん、神白くんもね! じゃ、私は行くわー」


 サムズアップする遥さんは、ニカッと笑って走り出す。これで二人きり――か。



「……」



 会長と……比屋定さんと二人きり。いや、学校でもそんなシチュエーションはあったさ。でも、こうしてプライベートで一緒にどこかいくとか初めて。改めて緊張が走る。



「……か、神白くん」



 比屋定さんは困っていた。

 そうだな、男の俺がしっかりしないと。そうだ、映画を見に行くだけだ……。



 そう思うと同時に、少し違和感を感じた。




 ――本当に・・・それだけでいいのか・・・・・・・・・




 このデートは本来、比屋定先輩からラブレターと思われた手紙から始まり、カートバトルで俺が勝利した結果でもあった。しかも、あの手紙は俺の誕生日を祝うものでもあった。


 あの時、俺はなんて言った?



『会長が一番目です』



 そうだ、そう言った。

 確かにそう口にした。あのリアを差し置いて一番目・・・だ。何故、俺はそんな順位をつけた?



 あの会長が俺の誕生日を祝ってくれた事がすっげぇ~嬉しかったからだ! だから、だからこそ……会長と一番にデートしたかった!!



 男子だったら誰もが憧れる生徒会長だぞ。そんな女子を独り占めできるんだ。最高だろッ!! せっかくだから、楽しいデートにしたい。



 だから、だ・か・ら――俺は、身が砕け散ってもいい決死の覚悟で勇気を振り絞った――!



「ひ、比屋定さん……」

「は、はい……」

「手を繋いでくださいっ!! はぐれたら大変なので!!」


 もっともらしい理由をつけて、俺は叫んだ。


「……神白くん。分かりましたっ」


 顔真っ赤っかのガチガチの動きで、俺に接近してくる比屋定さん。まてまて、会長がこんなポンコツロボットみたいになってるの初めて見たぞ……。


 しかも、手ではなく『腕』を組んでいた。



 ……そ、そうきたか。



「ス、スズ……それ俺の腕」

「あう……」



 俺もつい緊張で会長を名前で呼んでしまっていたが、もうそれどころでは無かった。会長と俺がまるでカップルのように腕を……。



 車の中といい、こうグイグイ攻めて来られるとは思わなかった。青春アオハルポイント『+100』かな。

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