会長がグイグイ攻めてくる

 リアを俺の部屋に呼び、パソコンでヨーチューブを一緒に視聴。終始リアは、俺のひざの上に乗ったままだった。


 更にお腹に手を回すよう要求され、俺はぎゅっとリアを抱きしめたまま動画視聴をしていたのだが――集中はまったく出来なかった。



「……もう時間だね」

「あ、ああ……」



 あっという間だった。

 リアと過ごす時間がこんな短く感じるなんて……それほど俺は究極の幸せを感じていたんだ。おのれ相対性理論アインシュタインめ、恨むぞ。



 立ち上がろうとすると、リアは振り向いて俺を押し倒してきた。普通、逆なのだが……あと三分あるからな。


 短めのキスをしてくるリアは、寂しそうにこう言った。



「大二郎……一日中キスしてくれてもいいんだよ?」

「……それはズルイなぁ。でも、気持ちは嬉しいよ」

「キスの先もしてもいいよ」

「ば、馬鹿。こんな朝っぱらから何言ってんだ。……ありがとう」



 正直、このままリアといたいよ。

 でも、約束は約束だ。

 俺は約束を守る男なのだ。



 だから、せめてもの“お礼”として俺はリアを優しく抱きしめた――。



 ◆



 約束の時間になった。

 時刻は十時。


 ピッタリの時間にラインのメッセージが飛んできた。時間通りか、さすが会長。



『到着しました。カムチャッカ荘の前にいます』

「了解……っと」



 玄関まで見送りにくるリア。

 先ほどかなりイチャイチャしたおかげか、その表情には余裕があった。俺を信頼しきっている顔だ。それが見れて嬉しかった。


「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」


 まるで新婚夫婦のようなヤリトリで、俺は外へ出た。




 アパートの前には、レクサス(LS)が停車していた。明らかにあれっぽい……。あんな高級車は間違いないな。



 予想通り、レクサスの中から会長が姿を現す。



「おはようございます、神白くん」

「お……おはようございます。これまた凄い車ですね……会長が運転、なわけないですよね」

「そんなわけないですよ~。今日も運転手がいるんです」


「運転手って、まさか専属の?」

「乗ってくれれば分かりますよ」


 乗れば分かる?

 どういう意味だろう。


 ……ああ、でも。


 そういえば昨日、別れ際にランボルギーニを運転していた女性がいた。まさか、あの人かな。でも、俺とあの女性に接点はないはず。


「……誰なんだ」

「神白くん、乗ってください」

「あ……はい」



 ぼうっと突っ立っているわけにもいかないか。てか、高級車に乗るとか緊張するな。



 後部座席に乗り込むと、そこにはやっぱり昨日見たサングラス黒スーツの女性がいた。同じく後部座席に会長が乗り込むと、運転手を紹介してくれた。



「紹介しましょう。彼女は従姉いとこの『東雲しののめ はるか』さんです」



 サングラスを取るスーツの女性。

 その顔は確かに『遥さん』だった……。



「え……ええッ!?」

「やっほー、神白くん」

「や、やっほーじゃないですよ。何やってるんですか、遥さん!!」


「驚いたよねぇ~」


「そりゃ驚きますって!! だって、俺がお世話になっている社長が運転手してるとか、何事かと思うじゃないですか! ん……従姉!?」



「そ。東雲家と比屋定家は親戚でね~。すずちゃんとわたしは、本当の姉妹ってカンジかな。まあ、だからこうして運転してあげるのも自然な流れというわけ」



 なるほどねえ、今日は確かに『土曜日』だから会社も休みか。遥さんの会社は超絶ホワイトで、ちゃんと土日と祝日休みを入れているからな。福利厚生もきちんとしており、最高の職場と名高い。


 でも少数精鋭で、従業員はそれほどいない。それなのに安定しているから――そうか、その裏には『比屋定財閥』がいたのか。



「これで繋がりましたね、神白くん」

「は、はい……会長。これは本当に驚きました。多分、ここ数年でトップクラスに」

「それは良いサプライズになりました。それでは、姉様あねさま……お願いします」



 と、会長はあまり聞かないような呼び方で遥さんにお願いしていた。……姉様あねさまって。そんな風に呼ぶ間柄なのか。


「……」


 いろいろ圧倒されていると、車は動き出した。……そうだ、会長と映画を見に行くんだ。今はそっちに集中しよう――いや、それは無理そうだった。



「神白くん、今日はデートいっぱい楽しみましょうね」



 会長は、大胆にも俺の右肩に頭を預けてきた。……か、会長があの小さな頭を、俺の肩に!! 出発からいきなり攻めてくるし!


 最高のデートになりそうだな。

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