恋人繋ぎで映画鑑賞
映画館に入り、上映時間も近くなった。
土曜日という事もあり、それなりに混雑している。チケット売り場は、そこそこ並んでいるな。今回はチケットはあるので、そのまま入場できる。
「意外とカップルが多いですね」
「そうですね……神白くん。私達もそう映っているのかもしれませんね」
「……なっ!」
俺とスズが恋人か……それはそれで――ん!? 急になんだか
周囲を見渡してみるが、変わりはない。
「……? 神白くん?」
「いえ、その……誰かに見られているような気がしたので」
「誰かに? ちょっと怖いですね。じゃあ、もうちょっと寄っておきますか」
――と、会長が急接近。
ほぼ密着するようなカンジになってしまった。うわぁ、良い匂いとか……体の感触がモロに伝わってくる。
その
……
いや――まさかな。
そんな……気のせいさ。
「い、行きましょう……スズ」
「ええ、
10時45分上映のSF映画『
いやいや、そんなはずはない。たまたま同じ映画なだけだ。たまたまな。
座席は二席が並ぶ場所。
そこでスズと一緒に座って映画鑑賞できるわけだ。最高すぎるな! ……って、あれ。あの猫耳帽子さんも後ろか……なんかこっちをジッと見つめてきているような。
俺は気になって少し振り向く。
すると、彼女(?)は慌ててパンフレットで顔を隠していた。……? 誰なんだ、いったい。まあいいや、映画に集中しよう。
毎度お馴染み、無駄に長い広告映像を見せられ――映画泥棒が流れる。そして、いよいよ本編が始まった。
約三時間の大作映画だ。
あの有名な監督が製作したから、期待が高い。わくわくしていると、スズが手を重ねて握ってきた。
「……か、かいちょ……」
俺は思わずそう呼ぶ。
「大二郎くん、私もこの映画は楽しみだったんです。だから、見終わるまで手を重ね合わせていたいんです……ダメですか?」
「い、いいですよ」
これくらいいだろうと油断していると、スズは恋人繋ぎをしてきた。こんな大胆に指を
これで三時間も耐えなきゃいけないのか……映画、集中できるかなぁ。それと、背後から微かに殺意っぽいものが向けられているような……。なんでこんな負の感情を感じるんだ、俺は!
いや、それよりも映画に集中だ。俺もこの映画はずっと楽しみにしていた。移住可能な星を探すという過酷なミッションを背負った父親が奮闘する物語らしい。
本編がついにはじまった――。
◆
「…………最高でしたね」
「時間の長さを感じさせない濃密な内容でした。終盤は感動さえしちゃいました」
映画館を出て映画の
「ブラックホールのシーンは大迫力でしたね!」
「ええ、それと壮大な
「傑作でしたよ、あれは」
「一緒に見れて本当に良かったですよ」
そんな話をしながら外へ出た。
ちょうど『グ~』とお腹が鳴った。
そうだ、もうお昼過ぎだった。
「お腹減りましたね……」
「まだ時間もありますし、どこかでご飯にしましょう」
「ご希望あります?」
「う~ん……。普段はあんまり外食しないので、私は詳しくないんです」
「分かりました。じゃあ、駅へ向かいましょう」
「駅? 浜松駅ですか?」
「そうです。あそこに飲食店が結構あるんですよ」
「へえ! 大二郎くんは、詳しいのですね。じゃあ、行きましょうか」
自然と俺の手を繋いでくれるスズ。もう緊張はなく、すっかり慣れた。……ただ、あの猫耳帽子の女の子が視界にチラチラ入ってきていた。いつまで付いてくるんだ?
う~ん……。
「ちょっと俺、お手洗い良いっすか?」
「分かりました。この広場で待っていますね」
俺は理由をつけ、スズから離れた。
あの猫耳帽子の女の子に気づかれないよう接近。背後を取った。……あっ、やっぱり! こんな日本人離れしている銀髪はそうはいない。
ならば、俺は……!
「Ураааааааа!!!」(うらぁぁぁぁぁあッ!!)
これは、突撃する時などに発するロシアの言葉らしい。発音はウラーである。まさに叫びながら俺は突撃した。
「え、ちょっ!?」
「この帽子とグラサンは没収だ、
「…………あぁ! お、大二郎……」
俺の顔を見て焦りまくるリア。
あまりにパニックになって、何故か俺にキスしようとしてくる。人前でやめいっ! ここは本当に人通りが多いから、恥ずかしいって……。
――にしても、どうしたもんかね。
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