何かが起こる日

 軽トラで運ばれること、二十五分弱。

 荷物の監視を名目に、俺は無事に荷台から生還を果たした。あまり快適とはいえない道中ではあったけど、風は最高に気持ち良かった。


「ありがとうございました」

「うむ。あとはリアを頼むぞ、大二郎くん」


 ポンッと肩を叩かれ、リアの爺ちゃん――セルゲイさんは軽トラで再び走り出す。


「なんとか遅刻はしなかったな」

「あと五分あるし、余裕だね」


 リアの方から俺の腕に寄ってくるので、そのまま支えた。もちろん、周りの生徒からはジロジロ見られているけど気にしない。


 教室へ向かう。


 いつもの隅の席へ向かい、先にリアを着席させた。


「ふぅ、無事に着いたな」

「いろいろありがとね、大二郎」

「いや、構わんさ。何か困った事があれば、いつでも注文オーダーしてくれ」

「あはは。なんかレストランみたいだね」

「そこは、ウーハーイーツと思ってくれ」

「今時って感じで頼り甲斐がいがありそう」


 なんて談笑をしていると、担任の梅中――いや、違う。今日は、学年主任の『三蓋菱さんがいびし くだん』が現れ、教壇に立った。


 教室内は『ざわざわ』と騒然となった。


「静かに」


 その渋くも厳しい一言でシンと静まり返った。いったい、どうなっているんだ……梅中はどうした? クラスの誰しもが疑問を抱いていただろうな。俺もだ。リアでさえ困惑していた。


「ねぇ、大二郎。先生どうしたのかな」

「さあな……具合でも悪くなったんじゃないか」


 ヒソヒソと小声でリアと話すと、主任が理由を話し始めた。


「担任の梅中先生だが、急性腰痛症……つまり『ぎっくり腰』をやってしまったようでな。一週間、大事を取る事になった。よって、学年主任であるこの私がしばらくは代理となる」


「ええ~!」「マジかよ」「梅中がぎっくりー!?」「腰かよ」「あれじゃねぇの、愛人とヤりまくったとか」「うわ、男子って直ぐそういう……下品よ」「まあ、腰じゃあ仕方ないな」「ぎっくりって死ぬほど痛いよなぁ」「俺、やった事があるけどトイレ行くのも困難だぞ」


 再び、教室内はざわざわと騒がしくなる。


 そういう理由か。

 俺は、ぎっくりになった事がないから分からないけど、突然やってくる症状らしいし、ガチで動けなくなるので、生活もままならないとか。相当不便になるようだな。



 ◆



 梅中がぎっくりになるというプチイベントを迎え、なんやかんや昼。俺とリアは、いつも習慣のように生徒会室へ向かった。


 部屋の前まで来てドアをノックし、入室。冷房が効いているのか、なかなかに涼しい。ここはエアコンがあって最高の空間だな。


「やあ、大二郎くんにリアちゃん」


 生徒会室には、あずさがいた。

 会長の姿はないな。

 ということは、後で合流かな。


「よ、あずさ」

「あずさちゃん、朝振り~♪」


 リアは、そのままあずさに抱きつきキャッキャウフフしていた。しかし、それがあだとなったんだろうな。あずさはニヤリと不敵に笑い、リアを確保。ひざの上に座らせ、腕でガッチリ締めていた。


「リアちゃん、ゲットー!」

「え……ちょ、あずさちゃん、どういうことー!?」

「もう逃がさないよ。リアちゃんは、あたしのモノ」

「そ、それは困る! あずさちゃん、もういいでしょ。放して」

「それは無理な相談だね。大二郎くん、リアちゃんはあたしが面倒を見ておくから、君は『図書室』へ向かって」


 逃げ出そうとするリアを押さえ込み、あずさは早く行けと言う。けどなぁ……。


「なんで図書室なんだ。それに、リアは……」

「大丈夫。リアちゃんは、あたしが美味しく戴くから」

「なっ……! あずさ、お前……そっち・・・なのか」

「まあ、リアちゃん可愛いし、アリかもね――なんてね、冗談だけど。それより、早く行って。待っている人がいるから」


 どうやら冗談らしいが、待っている人がいるのか。それなら仕方ないか……リアには悪いが、図書室へ向かってみよう。



「そういうわけだ、リア、すまない」

「うぅ~…。あずさちゃんに抱きつかれて逃げられないし……諦めるよう。じゃあ、後でね、大二郎」



 手を振って別れ、俺はひとりで図書室へ向かった。

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