生徒会長は趣味を探したい

 急ぎ足で生徒会室から図書室へ。

 到着すると扉が開いていた。


 誰が俺を呼んでいるんだろうな……大体想像はつくけどさ。


「入りますよ~…って、やっぱりな」


 昼の図書室には、ひとりだけ女子がいた。机にスマホを置き、それをゆっくりとタップして操作している。俺の気配に気づくと、その女子は赤い瞳で向け、にっこり笑う。


「神白くん、お待ちしておりました」

「会長……なにやっているんですか」

「神白くんを待っていたんですよ」

「どうして図書室で? いつも通り生徒会室でいいじゃないですか。リアとあずさだっているのに」


「どうしても話しておきたい事があったんです」

「話しておきたい事?」


 座るよう促され、俺は会長の目の前の席に座る。


「ええ、とても重要な案件です」


 そんな真剣な眼差しを向けられ、俺は緊張する。何なんだいったい……まさか、告白とか本当にヒモにしてくれるとか、そんな話じゃあるまいな。


「な、なんです?」


「以前にも言いましたが、私は“無趣味”なんですよね。なので、少しでも趣味を増やしたいなという考えがありまして……」


「そんな事を言っていましたね。でも、俺からすると会長って割と多趣味な気しかしませんよ。ドローンといい、カードゲームといい」

「それはあくまで弟の影響なだけで、一時的に遊ぶだけですね」


 嘘だ~、本当に無趣味ならまずやる気すら起きないと思うけどね。で、これがどんな話に繋がるんだかな。


「それで、俺と一緒に趣味を見つけて欲しいと?」


「ええ。でもその前に、色んな趣味をお持ちという梅中先生にも趣味の事で相談したんです」


「梅中に?」


「ですが、先生は体育の授業の後で、二十段の跳び箱・・・・・・・を片手で持ち上げ倉庫に戻す最中でした。その直後、ぎっくりを……」


「二十段の跳び箱で!? んなムチャな」


 あの体育会系の筋肉バカの梅中なら、やりそうだけど本当にやるとはな。いくら筋肉ムキムキで鍛えているからって限度があるだろうに。


「だから、ある意味では無趣味な私のせいかなと……思ったんです」

「それで罪悪感に苛まれて……?」

「ええ、だから趣味を見つければ、もう不運もないのかなと」

「いやいや、それは梅中の自業自得です。会長は、何も悪くないじゃないですか……」

「そうですか? でも……」


 よっぽど気にしているのか、会長は良い顔はしていなかった。いくら何でも気にしすぎだがな。けれど、そんな健気な会長が好きだな。


「じゃあ、趣味を探す手伝い、しますよ」

「本当ですか! ありがとうございます、神白くん」

「え、笑顔がまぶしいです……会長」


「じゃあ、さっそくひとつ挙げて貰えませんか?」

「いきなりですね。う~ん……」


 中々の無茶ぶりだな。しかし、そう振られては応えないワケにもいかない。会長に趣味かー…そうだな、会長は美人だし、小柄でスタイルも良いから――そうだ、以前、ボートレースへ行った時、あずさがメイドの衣装を着ていたな。あれを思い出した。


「……神白くん、随分と私をジロジロ観察していますね。えっちなのは……ちょっと困りますよ……」

「今思いついたのは、それにちょっと近いかもですね」


「……!」


 少し引く会長。

 でも“ちょっと”だから、アリなのか。


「じゃあ、コスプレとかどうです?」

「コスプレですか! なるほど、それは面白そうですね」

「以前、あずさがメイド服を着ていましたよ」

「……え! あずさちゃんが、ですか! そんなの聞いてない……むぅ」


「見たかったんですか?」

「ええ、そんなレアな格好、写真に収めたいじゃないですか! もう、あずさちゃんってば……でも、どうしてメイドさんなんです?」


 俺は、あずさがボートレース場でバイトしているらしい事を会長に伝えた。……あ、でも伝えて良かったのかな。まあ、喋るなとは言われてないし、良いだろう。


「――というわけなんです」

「コスプレは第一候補ですね。残りはまた今度ということで……ありがとうございました。とりあえず、お昼にしましょう」


 そうだ、まだ昼飯食ってないや。

 生徒会室へ戻る時間も惜しいなと、悩んでいると。


「会長、そのお弁当……」

「私の手作りです。一緒に食べましょう、神白くん」


 て、手作り弁当……だと!?

 会長、やっぱり無趣味じゃないだろう。

 と、心の中で突っ込んでいると、会長はミートボールに箸をつけ俺の口元へ。……え、なんか気づいたら“あ~ん”な状況に!

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