同棲生活 7日目

特別で甘々な朝

 規則正しく“ちゅんちゅん”と鳥の鳴き声がひびく。ついでに現れる“ホーホー”という鳴き声。毎朝聴こえるけど、あれは何の鳥だろうな。


 やがて、スマホのアラームもビービー鳴って脳を覚醒させる。


 どうやら、昨晩はあのまま寝落ちしたらしい。夜遅くまでプログラムの仕事を続けていたせいだな。


 起き上がって鈍った体をほぐす。


 今日は『水曜日』か。

 リアの足も気になるし、一度部屋へ行って伺ってみるか。と、俺は自室を出てリアの部屋の前へ。戸をノックした。


「入るぞ、リア」

「いいよ~」


 起きていたか。返事も貰ったので俺は部屋の中へ。


「おはよう、リア…………って、あああああ!!」


 ちょうど、あずさ・・・が着替えている最中だった。リアめ、返事のタイミング悪すぎだろ!!


「ちょ、いやっ……! リアちゃん、酷いよぉ」


 俺の存在に気付くあずさは、赤面して背を向ける。確かに今のはリアが悪い。


「ご、ごめん。本当にごめんね、あずさちゃん! 悪気は無かったの……」

「……うぅ」


 俺は早々に撤退。戸を閉めた。

 朝っぱらから、あずさの下着姿をおがめるとはな……。


 キッチンへ向かい、俺は震える手でモーニングコーヒーを作る。……やべ、手が思うように動かんぞ。コーヒーの粉が零れまくっている。どんだけ動揺しているんだよ、俺は。


「くそっ……」


 あずさのあの姿が忘れられない。

 ムチムチの健康体だったなぁ……。

 風紀委員長……恐るべし。

 


 ◆



「お、おはよー…」


 ぎこちない動きと口調で、あずさは挨拶をしてきた。俺も壊れた人形のような動きで彼女に視線を合わせ、なんとか言葉を振り絞った。


「お……おはよう、あずさ」

「……で、今日は休むの?」

「それは、リア次第だな。どうなんだ?」


 俺は足の状態を本人にたずねた。


「二人の看病と湿布のおかげで回復したから平気。大二郎が支えてくれるのなら、登校可能だよ」

「そりゃ良かった。休み過ぎて留年なんて事にはなりたくないからな。――そういうわけだ、あずさ。今日は学校へ行く」


 コーヒーを味わい終えたあずさは、カップを置いて静かに立ち上がる。


「了解。じゃあ、あたしは先に行こうかな~。バイクだからね」

「それもそうか。まあ、色々とありがとな」

「ううん。お泊り会みたいで楽しかった! また来ていい?」

「ああ、遠慮するな。なあ、リア」


 俺がそう振ると、リアも激しく同意する。


「あずさちゃんなら大歓迎だよ~! いつでも来てね!」

「ありがと! それじゃ、先に学校へ向かうね」


 ヘルメットを手に取り、あずさは玄関へ向かっていく。俺とリアは見送った。


「また学校で」

「またね、あずさちゃん」


「……」(二人はお似合いだなぁ。でも、負けないし!)


 時を止め、立ち尽くすあずさ。なんだか、ボ~っと俺達を見ていた。どうしたんだ……いったい?


「お~い、あずさ?」

「大二郎くん、恋はいつでもサイクロンらしいよ?」

「それを言うなら、ハリケーンじゃ?」


 ツッコムよりも先に、あずさは笑顔で去った。なんの事だかよく分からんが、楽しかったなぁ。


「大二郎」

「ん、リア……いきなり抱きついてどうした」

「やっと二人きりになれたね♪」


 もう登校する五分前。

 お互いに制服姿で、準備万端だった。でも、一番大事な習慣・・を忘れていた。昨晩は、あずさがいたから、リアはずっと我慢していたに違いない。


「ちょ、リア……!」

「Поцелуй」(キス)


 ロシア語なんて分かるはずがないのに、ニュアンスで理解出来てしまった。実に単純明快。これは『キス』だ。というか、行動でも示されているしな。


「このキス魔め」

「Я хочу целовать тебя вечно」(永遠にキスしたい)


 ――最高で、甘い朝を迎えた。

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