ラブレター開封作戦

 かばんに入れっぱなしのラブレターをこっそり取り出し、教科書に挟む。リアから見られないように必死に隠し、後は中身を取り出して読むだけだ。


 ……だけなんだが、リアの視線が痛い。


「…………」


 なんか察しているような感じなんだよなあ。というか、会長からのラブレターか。信じられんな。確かに、ちょっと前に弁天島の海水浴場で会話をし、冗談で“ヒモにしてくれ”とか言っちゃったけどさ、アレ、本気にしちゃったのかな。


 まさかな。


 どうにかして手紙を読みたい。

 読みたいが、リアの視線がなあ~…。



 ――結局、手紙は開封できず一限目を終えてしまった。



 休憩時間になると、リアが俺のそばに来る。……この神妙な顔。まずいな。リアは変な所で勘が鋭いからなあ。女の勘ってヤツかもしれんが。


「……大二郎」

「な、なんだ」

「次の授業は、理科の谷村先生だったんだけど急遽きゅうきょ“自習”だってさ!」


 なぬっ!

 それじゃあ、また手紙が読めないじゃん!



 ――結局、二時限目も、三時限目も無理だった。



 そのまま、昼を迎えてしまった。

 隣の席のロシアっ子はとにかく俺に隙を与えなかった。なんなら、キスもしてきた。これでは完全にリアのペースである。勝てねえ……。


 お昼は、生徒会室へ向かった。

 今のところ五乙女と会長の姿がない。いつもは先にいるのにな。


「な、なあ……リア」

「見て見て、大二郎」

「ん?」


 パイプ椅子に座るリアは、お茶のペットボトルをまたで挟んでいた。白く透き通るようなフトモモがまぶしいなぁ……って、そうじゃない。


「これね、ひんやりして冷たくて気持ちいの!」

「この部屋はまだ冷房をつけたばかりだし、暑いよな。ああ、それで股を冷やしているのか」


 納得していると、リアは手招きをする。

 俺は近づいていく――と。


「このペットボトル、取っていいよ♡」


 リアが何故か小声で、しかも俺の耳元でそう囁いた。流行はやりのASMRかな? まあ、音フェチの俺にはたまらんのだが。


「って、これを取れってか?」

「うん。熱中症対策。飲んでね」

「お、おう」


 俺はリアの股から、キンキンの冷えたペットボトルを抜き取った。……さっきまで、リアの股に挟まれていたんだよなぁ、これ。

 リアの方はハンカチで股についた水滴を拭っていた。そうなるわな。


 ん……? なんか肝心な事を忘れて……ああッ!



 そうだよ、手紙だよ・・・・



 ついつい、リアのペースに飲まれていた。恐るべし、ロシアっ子!!

 なんとか一人になるチャンスがあるといいのだが……。思考をフルに回転させ、戦略を練っていると、ガラッと扉が開いた。


 そこには、五乙女の姿があった。


「失礼しま~っす」

「五乙女!」

「ちっす、大二郎くんにリアちゃん。会長は、少し遅れて来るってさ」

「そうか、分かった。五乙女、リアの相手をお願いできるか」

「ん、リアちゃんの? いいけど」


 これしか方法がない!

 五乙女に任せて、俺はその隙に手紙を読む。今度こそ……今度こそ誰にも邪魔されずに、中身をチェックしてやる。

 いい加減に気になるし!


「大二郎、ちょっと……」

「リア、すまないがちょっと用事があるんだ。五乙女と話していてくれ」

「そ、それは分かったけど。うわぁ、あずさちゃん何するのー!?」


 五乙女は、リアのひざの上にまたがりそのまま抱きついていた。冷房も効いてきた頃合いだし、暑苦しくはないな。むしろ……なんだこの美少女二人の抱き合う光景。まるで百合っぽい雰囲気。


 ずっと見ていたい気もするぞ。

 いや、今は『手紙』の方が最優先事項である!!


 五乙女が、リアとふざけあっている今が最大のチャンス。この機を逃してなるものかッ! 俺は、ふところから手紙を取り出し、封を開けた!!


「こ、これは――」

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