風紀委員長はキスを待っている

 生徒会室へ一人で行け?

 どういう事なんだ……と、俺は少々困惑する。


「リア、そういうわけで俺は今いる生徒指導室から生徒会室へ向かわねばだ」

「え~…、なんで一人?」

「さあ、分からん。リアは先に教室へ……それか早退でもいいってさ」

「うぅ」


 棚橋の件があったばかりでリアは辛そうにしていた。誰かがそばにいてやらないと……ああ、この場合は俺だな。そうだ、放置なんて出来ない。


「やっぱり生徒会室の前で待っていてくれ。ちょっと時間は掛かるかもだけど……」

「うん。でもその前に……キスしていい?」


 俺との身長差がある為、かかとを上げるリアは、俺の腰に腕を回し密着。そのまま十秒くらい甘々な時間を過ごした。



 ◆



 生徒会室の前。

 俺はコンコンと軽くノック。すると中から直ぐに『どうぞ』と反応があった。一応、今授業中なんだが……五乙女そうとめか会長がいるようだな。まあ、声で分かったけど。


「失礼します」


 中へ入ると『五乙女そうとめ あずさ』がいた。


 会長ではなく、五乙女。


 何故、彼女が俺を呼び出した?



 ……まあ、なんとなく分かるけどな。



「いろいろあったようね、大二郎くん」



 椅子いすに座り、足を組む五乙女は俺を真っ直ぐ見据みすえる。相変わらず、飄々ひょうひょうとしていて何を考えているか分からない。


「もう聞いているかもしれないが、クラスメイトの棚橋がリアに付きまとっていた。ストーカー行為に発展していたんだ。……俺はどうして気づいてやれなかったのかと、後悔している」


「まあそれは仕方ないよ。リアちゃんは誰に対しても優しいからね。あんな大らかな性格だもん、人気もあるよ」


「それで、五乙女。俺に何の用だ」

「うん。その話なんだけど、座って」


 目の前に座るよううながされ、俺は五乙女の目の前にあるパイプ椅子へ座った。なかなかに距離が近いぞ。五乙女は、リアに負けないような美貌びぼうを持っているから、こう近いと緊張するな。


「まずは、あたしもだけど会長も大二郎くんを守った。それと、校長や理事長にも掛け合っておいたよ」

「……五乙女がかばってくれたのか」

「まあね。ハッキリ言うけど、あたしは大二郎くんが好きなのね」

「え……」


「正確に言うと、大二郎くんとリアちゃんの関係性かな。もちろん、君の事も好きだよ。めちゃくちゃ好き。正直、キスしたいくらいに」


 マジかよ。五乙女って、俺の事をそんな風に思ってくれていたのか。


「でも、俺は……」

「ああ、分かっているよ。あたしに入る隙なんてないさ。だから、せめて大二郎くんとリアちゃんの二人の仲を応援したいっていうか、幸せになって欲しいんだ」


「……分からないな。なぜ応援してくれる」


「単純に大二郎くんが好きだからさ。肉体的に接触したいとさえ、あたしの心が望んでいる。――でも、リアちゃんの気持ちを知っちゃったらさ……身を引くしかないじゃん」


 ……リアの気持ち。

 五乙女が自身の気持ちを諦め、譲るくらいの何かがあったって事か。それほどの想いって……なんだろう。


 でも、少なくとも俺は――。


「ありがとう、五乙女。俺は、今まで真面目な恋なんてした事がなかった。いきなりロシアっ子に懐かれて、当初は困惑さえしていた。どう接していいか分からなかったし……でも、今この生活が楽しいよ。守ってくれてありがとう」


「うん……気が変わったら、いつでもキスしてきてよ。待ってるから」


 五乙女は、まだ諦めてない風にそう微笑んだ。まったく……五乙女には敵わんな。もし、万が一にもリアに振られたら考えようかな。

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