ロシア語の理由

 そこに現れたのは、同じクラスメイトの『棚橋』だった。アイツは、リアが編入してきた当初からナンパしてきた……!


「そうか、二人はそういう関係だったのか」


 冷静に俺達を見つめる棚橋は、こちらへ接近してくる。しかも、その視線は俺ではなくリアだけを見ていた。


 棚橋は俺の前まで来ると俺の体を突き飛ばしてきた。あまりに突然の事態に、俺は床に背中を打ちつけた。……いてぇ。いきなり何しやがる、このアホ!


「……くッ」

「大二郎!! ちょっと、棚橋くん……酷いよ」


「なんだ、やっぱり日本語が喋れるじゃないか、リディアさん」

「……だから何。というか、もう付きまとうの止めてくれない? 今日で確証を得たけど、これってストーカーだよね。あの日からずっとわたしに付きまとっていたみたいだけど……ハッキリ言わせて貰うけど、気持ち悪いよ」


 まさか、今日の妙な表情も棚橋のストーカー行為が原因で? そうだったのか。俺は、リアの置かれている立場をようやく理解した。

 そうか、だからリアはロシア語で流していたんだ。


 激痛に耐えながら体を起こそうとするが、その間にも棚橋はリアを壁へ追いやっていた。


「――きゃっ! や、止めて……乱暴しないで」

「リディアさんを見た瞬間から……俺はずっと君を想っていた。あんな雑魚の神白より、俺と付き合う方がよっぽど幸せになれる。君だって顔も性格も良いと評判の俺の方がいいはずだ」


「……」


 リアは泣きそうになっていた。

 いや、泣いていた。


 泣かせた事もそうだが、付きまとっていたとか……絶対に許さない。リアは、きっと今日までストーカーされていた確証が得られず、怖くて誰にも相談できなかったんだろう。

 

 気づけなかった俺も馬鹿だけど……でも。俺は、親父から習った唯一の護身術で突撃。正当防衛の名の下に棚橋を引き剥がし、怒りの鉄拳を振りかぶってヤツの股間へ――金的きんてきを加え、タマを破壊した。


「ぐおおおッ!!」


 間髪入れず、俺は更に金的タマを!


「ぎィえええ!!」


 更に握り拳を入れていく!!


「ああああッッ!!」


 トドメの四回目……!

 最後は、ヤツのブツが使えなくなるほどの勢いで引っこ抜く!!



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…………ッ!!!」



 ついに棚橋は倒れ、白目を剥いてピクピクと痙攣けいれんしていた。俺はこの後、直ぐに担任である『梅中うめなか』を呼び――事情を話した。



 ◆



 俺は、今回の件で退学処分も覚悟していたが、不思議な事に、それは回避された。全てリアが事情を話してくれたおかげだ。棚橋のストーカー行為は、他の女子にも及んでいたようで担任は、ある程度の状況を理解していたようだった。



「神白、金的きんてきはやりすぎだが……風紀委員長、生徒会長そして、校長や理事長先生すらもお前を擁護ようごした。

 リディアの証言によれば、お前は棚橋に突き飛ばされたようだし、リディアにも危害が及んだと認識している。つまり、正当防衛が認められたんだよ。まったく、お前というヤツはどんな人脈を持っているんだかな。

 ……だがな、正当防衛とはいえ、少しやりすぎだ。幸い、棚橋のキンタマが潰れなかったから良かったものの……幸運だったな」



 担任の梅中は真面目な顔でそう締めくくった。俺はおとがめなし。棚橋は停学処分となったらしいが、もしかしたら転校や退学もあり得るかもしれないとの事だった。少なくとももうクラスには戻れないかもな。


「ありがとうございました。失礼します」

「ああ、そうだ、神白。生徒会室へ一人で・・・行くように」

「……はい?」


 何故か生徒会室へ行くように言われ、俺は向かった。

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