リディアの本音

 隣の席のリアは、真っ直ぐ親父を見据みすえた。こっそりと俺の手を握るも、小刻みに震えている。リアでも緊張するんだな。……いや、このイカツイ親父を相手にするんだ、恐怖心が勝る。


 ――だが。


「お父様。大二郎くんはそんなセクハラとかする人なんかではありません。真面目な生活を三日過ごしています。わたしに乱暴とかしないし、優しく接してくれています」


「……ほう、そうかね。だが、若い男女が一緒に暮らせば必ず間違いが起きる。ロシア美人なら余計に。そういうものだろう? そんな不純行為が認められれば、同棲なんてもってのほか。直ぐに止めるべきだ」


 何故、俺を凝視する!

 襲われてるの俺の方だけどな。


「ええ、そうかもしれません。ですが、この生活を望んだのはわたし自身。両親の反対を押し切ってまで実行した念願の日本生活と大二郎くんとのアパート暮らし。もちろん、彼は一人暮らしを希望していたのでしょうけど……でも、どうしても彼を知りたかった」


「どうしてかね、何故そんなにも大二郎が知りたい。何故一緒に住みたい」


「す……好きだからです。そんな単純な理由ではいけませんか」

「参考までに具体的に教えてくれ」


「ぜ、全部です! 大二郎くんの優しい顔とか性格とか、ちょっと背が高いところか、プログラミングだって出来るし、倹約家なところも……あぁ、もう、とにかく全部です!」


 全部か、それは嬉しいな。

 俺もリアの全部が好きだ。


 ……それにしても、完全に親父のペースに飲まれているな。さすが謎の組織で働く親父。精神分析関係でもしていたに違いない。


「じゃあ、最後の質問だ。えっちな事はしていないんだね?」


「…………はぅ」


 おい、親父。いくらなんでも直接的すぎるだろ! それこそセクハラじゃねぇか!?


「ほう、その反応。やっぱり、大二郎と……」

「止めろ、親父。リアが困っているだろう!」

「そうかな? 顔は真っ赤だが、幸せそうだぞ」

「そ、そんな質問をするからだ。もういいだろ、俺とリアは互いに好意はあるけど何もないよ」


「両想いで何もない? なんという矛盾」

「うるせえッ。さっさと長野に帰れ!」

「……まあいい、二人の生活を認めよう」


 腕を組み険しい表情で親父は言った。


「え? マジ?」

「どうやら、肉体関係はなさそうだからな」

「ねーよ」

「じゃあ、オレはそろそろ……」


 やっと帰ってくれるのか! 俺とリアの生活を確認出来た親父は、椅子いすから立ち上がり玄関へ向かっていく。


「親父、俺はリアを幸せにしたいんだ」

「……分かった。ロシアにいる親戚にはそう伝えておく」

「え……これマジな話だったの?」

「当たり前だ。リディアちゃんも頑張ってな」


 そう言い残し、親父は少し嬉しそうに玄関から出て行った。


「……行っちゃったね」

「ああ……」

「もういいよね」

「ん?」


 リアは俺の首に腕を回し、いつもより濃い目のキスをくれた。俺もちょっと我慢できなくて、つい力が入ってしまった。


「……んっ」


 クリームのように甘い一時を味わっていると――



「おぉと、ひとつ言い忘れていが…………あ」


「「え……」」



 何故か親父が戻ってきていた。


 ああああああああああッ!!!

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