親父を阻止せよ

 この瞬間、俺は風となった。

 スポーツ万能でもない俺は、ただ親父を阻止そししたい一心で飛び跳ね――ラグビー選手並みのタックルをかました。


「――ぬぉ!! 大二郎、何をする!」

「部屋には絶対に入らせん!」

「なぜだ、この先は物置部屋だろう? やましい事がないのなら見ても問題ないだろ」


 あるさ、おおありさ!

 この部屋の中にはリアがいるんだぞ。一緒に寝ている事がバレたら、俺はおしまいだ! 五乙女の口癖『不純異性交遊』で一巻の終わりだぞ。


「親父、すまないがこの先を通りたくば俺のしかばねを越えて行って貰う」

「……ほう、そうか」


 バキバキボキボキと手や腕、首を鳴らす親父は、メラメラと燃えていた。やべぇ、この親父の目、本気だ――。


 親父は本当かどうかは分からないが『フランス外人部隊』、『デルタフォース』、『シールズ』、『スペツナズ』……果ては『KGB』、『CIA』や『FBI』、『MI6』にも所属していたと聞く。多分、いくつかは嘘だが、一部は本当らしい。その昔、怪しいスーツ姿の男が実家に来た事があるから多分、何かしらの組織には所属していたようだ。


 そんな親父に勝てるはずもないので、こうなったら金玉を破壊するしかないだろう。それが男の最大の弱点である。


「親父、死ねええええええええッ!!」

「この馬鹿息子がッ!!」


 これで決着をつける!!

 だが衝突する寸前、戸が開く。


「…………何よもう、朝っぱらから五月蠅うるさいわね。って、え……大二郎と誰?」


 リアが起きてしまった。

 こんだけ騒げばそうなるわな。



 ◆



 俺の部屋で話し合う事に。

 結局、こうなったかぁ。


「紹介するよ、リア。この素性の知れない怪しいおっさんは『神白かみしろ 竜兵りゅうへい』と言って、俺の親父だ」


「え……! 大二郎のお父様なのね。はじめまして、一緒に住まわせて戴いております。リディアです。いつもお世話になっております」


 リアは、随分と丁寧に挨拶をした。


「おぉ、これは驚いた。日本語が流暢りゅうちょうでしかも挨拶も完璧。……失礼だが、本当にロシア人かね」


「ええ、生粋きっすいのロシア人ですよ、お父様。御存知かもしれませんが、遠い親戚に日本人の方がいるんですよ」


「そうだったな。それにしても、名前とある程度の性格だけは耳にしていたが、美人でしっかりしている良い娘ではないか」


 うんうんとうなずく親父は、リアに感心していた。確かに、リアは大和やまと撫子なでしこっぽい雰囲気もあるけどな。


「――で、さっそくだが、リディアちゃん。大二郎に無理やり襲われていないだろうね?」


「ブ――――――ッ!!」


 俺は思わず吹く。

 なんて事をリアに聞いているんだよ!!


「いいかい、リディアちゃん。君の両親は健全な日常生活を望んでおられるようだ。若い娘さんをひとり日本に渡らせてしまっていて、凄く心配なされているようだからね。もし、大二郎に少しでも問題があれば言ってくれ。セクハラとかセクハラとか」


 おい、そこ、最後は強調しなくてもいいだろう!


 俺はリアにアイコンタクトして『頼む、親父を黙らせてくれ』と伝えた。それを察したリアは『任せて』と返答。これは期待できそうだな。


 なんとかして親父を追い払いたい!

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