同棲生活 4日目

親父、襲来

 顔を向け合うのは難易度が高すぎた。

 結局添い寝され、背を向け合って就寝。


 だが、リアは意外や寝相ねぞうが悪いらしく……俺を抱き枕か何かと勘違いしたんだろうな。ぎゅっとされてしまっていた。



 こんなの寝れるかー!!



 ――早朝。

 俺はほぼ一睡いっすいもできず起き上がった。リアは、相変わらずぐっすり眠っている。その寝顔があまりに天使で何でも許せちゃうような気分になった。


「朝風呂でも行こ……」


 冷房が効いている部屋なので、それほど汗はいていないけれど、そんな気分だった。さくっとシャワーを浴びて風呂から出る。――と、同時に玄関をノックする金属音が響く。おいおい、近所迷惑だ。どうせなら、備え付けられているインターホンを鳴らしてくれよ。


 渋々、玄関前へ向かう。


 誰だ?


 このアパートはカメラ付インターホンもあった。先に画面で確認すると、そこには――


「げッ! 親父!」


 あの殺し屋のように無駄に渋い顔、人間を三人は殺していそうな凶悪な目つきの男は間違いない。何しに来やがった!


 しかもドンドンとノックうるせぇし!

 借金の取り立てじゃあるまいし、リアが起きちまうだろうが。というか、近所迷惑すぎる。


 ええい、仕方ない……。

 大至急で玄関へ向かい、俺はチェーンをした状態で扉を開けた。


「……」

「おう、やっと出て来てくれたか我が息子よ」

「親父、何しに来た。まだ朝の七時だぞ」

「何ってちょっと可愛い息子の様子を見に来ただけだが。ほら、リディアちゃんと同棲しているって話だろう。健全な生活をきちんと送れているか視察しに来た」


 俺は扉を閉めた。


「今すぐ帰れ」

『待て、大二郎。もし乱れた生活をしている場合は、帰って来てもらわなければならない。ただでさえ、若い女の子を任せてしまっているのだからな』


 こんな時ばかり真面目かよ。

 いやしかし、この生活を認めて貰えなくなったら、俺はリアと住めなくなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。


 渋々と扉を開ける。


「分かった。見るだけだぞ」

「ああ、見るだけだ。だが、もしも乱れた生活を送っていれば……その時は覚悟するんだ」


 親父は上がってさっそくダイニングキッチンを見渡す。


「……ここは普通だろ」

「ウム、そうだな。レイアウトも綺麗だし、整理整頓もされている。築五年のアパートだから見栄えもいいものだな」

「そりゃそうだ。まだ住み始めたばかりだからな」

「なるほど。なんだか女子特有の匂いがするし、置物もそれっぽいな」


 それな。リアのシャンプーか香水か分からないけど、柑橘かんきつ系っていうのかな、常に良い匂いが漂っているんだよな。置物も100均で買ってきたやつだけど、なんだか部屋の雰囲気に合っていた。


 なんだ、これならあっさりクリアできそうだな――と、楽観視していたのだが、親父は右の部屋へ歩き出した。

 まずい、そっちは俺の部屋で……しかも、リアが眠っている! そんなのを見られたら俺は――終わりだァ!


「ま、まて親父! そっちは何もねぇよ。ただの置物部屋だ」

「ん? おかしいな、お前とリディアちゃんで住んでいるんだよな。なら、右と左の部屋でそれぞれ割り当てているんじゃないのか」


「……ぐっ」


 まずいぞ、絶体絶命の大ピンチ。

 どうにかしてクソ親父を引き剥がさねば。どうする……どうする?


 脳をフル回転させている間にも、親父は手を伸ばし、取っ手を引こうとする。



 させるかあああぁぁ……ッ!

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