風紀委員長の愛車

 振り向くと、スクーターバイクに乗り、スモークシールドのついたセミジェットタイプのヘルメットを被る『五乙女そうとめ あずさ』の姿があった。


「ス、スクーター!? しかも、三輪ピンクナンバー」


「おはよう、大二郎くんとリディアさん。そう、これはあたしの愛車ボルシティ125なんだ。新車だよ~」


「五乙女、免許持っていたのか」

「うん、一週間前にね、ほら」


 見せつけられる免許証。

 そこには何故か黒髪の五乙女の写真が映っており、確かに『原付』と『普通二輪(小型)』があった。ついでに『小特』もあった。コイツ、何気にフルビット免許を狙っているな。


 でもうらやましいな。

 俺もバイク乗りたいなぁ。


「よくそんな金と許しが……ああ、納得」

「許しはともかく、お金は自分で工面したよ。詳しい事はまた今度ね。それでなんだけど、良かったら後ろ乗っていく? 二人乗り出来るし」


「あのな、五乙女。さすがの俺も少しは道路交通法の知識がある。二人乗りは一年間禁止のはずだぞ」


「あー! ごめん、忘れてた」


 舌を出し、誤魔化す五乙女。

 まさか本気だったのでは。

 ルールはきちんと守ろうな。


「というか、徒歩である俺達が遅刻しちまうよ。先に行ってくれ」

「分かった。じゃあね、二人とも」


 アクセルをブン回し、五乙女は爽快に走り出す。女子高生のバイク姿……カッコいいな。


「大二郎、ああいうのが良いの?」

「滅多にいないだろ、あんなレア女子高生。しかも風紀委員長で」

「そかー、わたしも免許取ろうかなー」

「いや、俺が近い内に取るさ。もし免許が取れたら、リアを後ろに乗せる」


「それ最高! うん、楽しみにしてる」


 リアは嬉しそうに笑い、鼻歌交じりに歩き出した。そんな風に期待されると、俄然がぜんやる気が出るってモンだ。よし、仕事を頑張って資金を貯めるか。



 ◆



 ――秋桜学園――


 リア共に教室に入ると、一斉に注目を浴びる。そんな俺を見つめられても……違った、俺じゃないな。全員、俺の隣にいるリアを見ていた。そんな中、あのナンパ男である棚橋が接近してくる。



「やあ、リディアさん。おはよう」

「Доброе утро」(おはよう)

「え」

「Пока」(またね)



 ロシア語でサラッと棚橋を流し、俺の手を引っ張るリアは教室の一番後ろへ向かう。そこが俺で隣がリアだ。

 席に着いて、俺は小声で耳打ちする。


「なぜロシア語なんだ」

「わたし、大二郎にしか興味ないもん。それに、日本語は少ししか理解できない事にしてあるの」

「……マジか」


 その直後、予鈴が鳴る。

 リアはずっと俺の方を向いてニコニコしていた。どうやら俺の為にらしい。


 少ししてHR≪ホームルーム≫が始まったのだが、キレイに折り畳まれた小さな手紙が飛んできた。これはリアかららしい。


 手紙の内容を確認すると――、

 そこにはキスマーク。


 それと『Хочу,чтобы ты миня поцеловал』と書かれていた。だから、ロシア語は読めないって……あ、分かった。


 これはキスマークで理解できた。

 つまり“キスしてください”――か。

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