甘味の正体

 甘味の正体はロシア料理『ブリヌイ』だった。分かりやすく言えば、クレープだ。


「リアの朝食はこれか」

「うん。キス、甘かった?」

「……ま、まあな。ああ、俺の分もあるんだ」

「時間が無かったから、簡単に蜂蜜はちみつとバターで済ませたけどね」


 そりゃ、唇が甘々なわけだよ。

 それにしても美味そうだな、これ。予め一口サイズにカットされていたので、俺は手に取って口に放り込む。すると舌上に予想の三倍を超える甘味が広がった。


 天にも昇るような風味に舌鼓したつづみを打つ。


「これは美味いなぁ! クレープの食感に近い。これが本場のロシア料理か。なんだか贅沢だな」


「でしょ~。これ、超おススメ」

「ロシア料理に対する認識を改めないといけないな。うん、マジで美味い」


「他にも美味しい料理は沢山あるんだからね、もっと食べさせてあげる♪ ……あ、でももう時間だね」


 俺のスマホのタイマーが鳴る。

 そろそろ出ないと遅刻してしまう。



 ◆



 アパートから弁天島駅は徒歩十分も掛からない。ほぼ目と鼻の先だから、ラクチンだ。


「ここ、いつも混雑しているね」


 まだ周囲の環境に慣れていないリアは、目を白黒させる。


「コンビニも近いし、湖もあるから釣具店も乱立している。普段は釣り人で賑わっているし、ボートレースもあるから朝から観光客も多いんだよ」


「ああ、そうなんだ。ボートレースはちょっと面白そうだね」


「興味あるのか?」

「うん、ちょっとだけね。でも釣りもしてみたい」


 ほう、釣りか。

 俺も息抜きに釣りはしてみたいと思っていた。食材をゲットできれば食費を抑えられるし、ありかなと考えていた。


 そんな他愛のない話を続け、電車に乗り込んだ。



 舞阪駅へ降り立つと、見知った顔も多くなるせいか振り向かれていた。



「電車の中でもだけど、さすがにジロジロ見られるな。特にリアが」


 とにかくリアの全てが目立った。

 腰まである長い銀髪、人目をくオッドアイはオーシャンブルーとピンクダイヤモンドのような瞳をキラキラ輝かせている。

 雪のような白い肌は、ツルツルで傷はおろか染みひとつない。最後にあの服越しでも確認できる美乳にして巨乳。


 形もよければ大きさもあった。


 こんな核兵器級のロシア人、誰でも注目するわな。俺は歩きながらもリアを観察していた。すると――



「そこ! 不純異性交遊禁止です!」



 突然、背後からそんな声が響く。

 これは実に分かりやすい……。

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