【WEB版】追放魔術師のその後 ~なんか、婚約破棄されて、追い出されたので、つらい貴族生活をやめて遠い異国の開拓村でのんびり生活することにしました~
始めてちょろちょろ中パッパ赤子が泣いてもフタ取るな③
始めてちょろちょろ中パッパ赤子が泣いてもフタ取るな③
「全軍、撤退!」
「はっ! 全軍! 撤退! 撤退だ!」
アリシアの指示で周りにいた部隊から順に撤退の準備を進めていく。
アリシアは森から魔物が出てきたことを確認すると、全軍に撤退を命令した。
第二王子派の部隊の人間は従わないかもしれないが、自分の部下優先だ。
アリシアの部隊は手際よく撤退の準備を進めていく。
輜重隊など戦闘に関係なく足の遅い部隊は準備ができた部隊から順に撤退を始めている。
(撤退を見越して準備を始めておいてよかった)
アリシアの元にはいろいろな情報が入ってきていた。
魔物が出たこと。
天誅と思われる人間が来たこと。
彼らが魔物を全て倒したこと。
重傷者を治療してくれたこと。
治療の余波で天幕にいた他の患者も治ってしまったなんてものもある。
中には、天誅に第二王子が結婚を申し込んだなんてふざけたものまであった。
ふざけた報告をするなと部下を叱責したんだが、調べてみるとどうも真実だったらしい。
あの王子は本格的に頭が同化しているんじゃないだろうか?
幸い、今回この場に訪れた天誅は穏便な方だったらしく、その場が血の海になったりはしなかったが、下手をすれば軍にも大きな被害が出ることだってあり得た。
アリシアは辺境伯という役職柄、天誅という存在が実在する部隊だということを知っていた。
時には異端審問と称して村を一つ焼き払い。
時には村に害をなしていた魔物を討伐する。
教会からの働きかけでそれらは全部無かったことにされてはいるが、人の口に戸は立てられない。
ある程度の情報は流れる。
そして貴族であればそれらの情報を調べることは容易だ。
それを明らかにしようとすれば天誅の標的になることだってあり得るので、親しい貴族間で会話される程度だ。
おそらく、全体の十分の一も情報は入ってきていないだろう。
それでも、下手な魔物よりも大きな被害を出している。
そんな相手に結婚を申し込むなんて、魔物をペットとして飼おうとするようなものだ。
気が狂っているとしか思えない。
(まあ、今回はそのバカ王子のおかげで助かったというのもあるが)
今回の王子の奇行を理由の一つに次に魔物が出たら撤退と軍議で決まった。
王子がおかしなことをしたせいで、天誅が魔物を操る者を無視して帰ってしまったかもしれないからな。
部下の話を聞いた様子ではおそらくそんなことはないだろうが、布石のつもりだった。
だが、今にして思えば打っておいていい布石だった。
魔の森の方から恐ろしい爆音が聞こえてきたからだ。
つまり、あそこにいた魔物使いはそれだけ強力だったということだ。
天誅が負けたとは思わないが、相手を完全に倒せたとは限らない。
魔物使いがやぶれかぶれで何かをしたというのもあり得る。
「アリシア様!」
「この忙しい時に……こんどはなんだい?」
「魔物が敵軍の方に突っ込んで行きました!」
「なに!?」
アリシアは撤退の指揮を近くにいたものに引き継ぎ、敵軍の方を確認する。
魔物はちょうど敵軍へと攻撃を加えているところだった。
敵軍はまさか自分達のところに魔物が攻めてくるとは思っていなかったらしく、大いに慌てふためいている。
「突撃準備ー!!」
「はぁ!?」
その時、大本営の方から突撃準備の号令が聞こえてきた。
風の魔術を使って声を遠くまで届かせているらしく、こちらまでしっかりと聞こえてきた。
そういえば、第二王子が声を拡散させる風魔術師を雇ったという話を聞いたことがあった。
こういう時のために雇っていたのか。
「突撃準備致しますか?」
「馬鹿野郎! 徹底に決まってるだろうが!」
あのバカ王子は相手が混乱しているのを好機と見て攻撃させようとしているのだろうが、そんな奇襲、うまくいくはずがない。
それ以前に、今行っているのは戦争なのだ。
魔物狩りに来ているのとは動員されている人数が違う。
さっきは攻めてきた魔物の数が多かったから対処に困ったのだ。
攻めてきた魔物が一匹なら一部の部隊を魔物の対処に充てたとしても、残りの軍でうちの軍に対する対処ができる。
そのため、今攻撃したとしても、奇襲になるかどうかも怪しい。
そんな話をしているうちに突出した第二王子の軍は敵軍のど真ん中へとツッ込んでいく。
「問題なく受け止められているようだね」
「そのようですね」
案の定、こちらの軍の突撃は難なく受け止められでしまっている。
魔物がかなり深くまで侵攻しているのはおそらく、自分の軍に魔物が来るとは思っておらず、対処が遅れたためだろう。
というか、第二王子の軍も動きが良くない。
本来なら魔物が攻めてきたため混乱している魔の森側、敵軍の右翼に攻撃を加えるべきだ。
もしそれができていればいい奇襲としてかなりの損害を敵軍に与えることができたかもしれない。
だが、第二王子が攻撃を加えたのは敵軍の中央付近。
魔物による被害も出ていなければ、そこまで混乱も起こっていない。
末端の兵の中には魔物が攻めてきたことに気づいていないものも多い筈だ。
これでは万全の部隊と大して変わらない。
「第二王子の軍。押し返されています」
「だろうね。援護の部隊を出してやりな」
「はっ」
少数の突出した部隊が万全な多数の軍に攻撃を仕掛けた時の結果なんて新米指揮官だってわかる。
第二王子の軍はあっさりと敗れて敗走していた。
こうなってしまえば、追撃されないようにこちらの軍も動く必要がある。
(撤退準備で忙しい時に。あいつらは本当に何をやってるんだい)
アリシアは大きなため息を吐きながら。
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