始めてちょろちょろ中パッパ赤子が泣いてもフタ取るな ②

「こうなってしまったもんは仕方ない。問題は俺たちがこのあと逃げるかとどまるかなんだよな」

「それぞれ問題がありますもんね」


 逃げてしまえばおそらく魔物は俺たちを追ってこない。

 魔の森から出てきた魔物は魔の森の近くから生物を追い出すことを第一目標とするためだ。

 離れていく獲物に関しては追いかけはするが、一定以上離れれば追いかけるのをやめる。


 たとえ追ってきたとしても逃げ切ることは簡単にできるだろう。


 だが、俺たちが逃げてしまえば魔物は間違いなく俺たちの後ろで展開している軍の方にいく。

 普通の人が魔物から逃げ切るのはほぼ不可能だ。

 それが軍隊みたいな組織となれば尚のことだ。


 あの軍隊は数匹の魔物でいっぱいいっぱいになっていた。

 今目の前で出てきているだけで数十匹以上になる。

 一時間もすれば数百匹にもなるだろう。

 それだけの数に襲われれば相当な被害を受ける。


 下手をしたらミーリアの友人も命を落としてしまうかもしれない。

 せっかく助けたのだからそんなことになるのは避けたい。


 そうしない方法は簡単だ。

 リバウンドが収まるまでここで俺が魔物を食い止めていればいい。

 そうすれば、被害は出さずにすむ。


(でも、その場合。天誅の二人に俺たち二人が生き残っていることが間違いなくばれるんだよなー)


 おそらく、天誅の魔術で魔の森に被害が出たことをあの二人は気づいているだろう。

 当然、その後に魔物が出てきて、あたりに被害を与えるということもわかっているはず。

 にもかかわらず、全く被害が出なかったとわかれば俺たちが生きていることがばれるだろう。


 生きていることがばれればしつこく追ってこられるかもしれない。


 最悪の場合、それだけですまないかもしれない。

 今回のリバウンドの規模から俺の能力を推察されれば、相当数の追手が出されるはずだ。

 少なくとも、今回のように間抜けな二人組ということはないだろう。


(教会の力は予想以上っぽいからな。どんな方法で追ってくるかわからない以上、完全に逃げ切れる自信はない)


 天誅の二人はマーレンたちよりも魔力量が多かった。

 魔の森を忌避している教会だから、俺たちのように魔の森の中で鍛錬したというわけではないはずだ。


 そうなると、古代魔術師文明の遺産を使ったと考えるのが妥当だ。


 古代魔術師文明の頃は人為的に魔力濃度の高い場所を作り出す酸素カプセルみたいなのがあったらしい。

 それをどこかの遺跡で発掘して使って強力な戦士を作っているんだと思う。

 おそらく、教会が回復魔術を独占できているのも、古代魔術師文明時代の遺産を使った武力に背景があるんだろう。


(教会は古代魔術師文明の品も忌避すべきものとして排斥してたはずだけど。まぁ、宗教なんてこんなもんか)


 教会は古代魔術師文明の品も禁忌の地から手に入れた禁忌の品としてそこまで積極的にではないが否定している。

 きっと教会の本部に行けば「どうして教会の本部に禁忌の品があるんだよ!」って状況になってると思う。


 まあ、宗教ってのはそんなもんだ。

 清貧を良しとする教会に声太った豚のような神父がいるように、自分達で作った禁を『自分達だけは神に選ばれた存在だから』と言って勝手に破る。


 前世の地球でもそういう宗教は多かった。

 清廉潔白な宗教家が歴史書に載るくらいには宗教家っていうのは汚い存在だ。


(問題は、どんな遺産を持っているかわからないってことなんだよな)


 そんな遺産があるなら、人を追跡する遺産があってもおかしくない。

 今問題になってるのはそこだ。


 俺は数日の痕跡を追ったりはできない。

 つまり、俺と同程度の魔術師が居るってだけではここで何をしても追いかけられることはないだろう。

 今日の二人の雰囲気から言って、俺と同程度の魔術師はいないと見ていいと思う。


 じゃあ、もう追手を気にする必要はないかと言えばそういうわけにもいかない。

 古代魔術師文明の頃には人を追跡する魔導具が色々あったみたいだからな。

 特化した道具を使えば人間の感覚を超越することはそう難しくない。


 現代日本でもそうだし。

 直感では追いきれなくても科学捜査をされれば足取りはたどることができてしまう。


 科学捜査のようなことが教会にできないという保証はない。

 というか、そういう魔道具を持っている可能性はかなり高いと思う。

 古代魔術師文明時代には警察みたいな組織のあったみたいだし。

 古代魔術師文明時代の小説にそんな組織が犯人を追い詰めるみたいなのあったし。

 俺の持ってる魔導書は市販されていた物なので、秘密情報みたいなのは乗ってなかったんだよな。


「さて、どうしたものか」

「……そうだ。こういうのはどうでしょうか?」


 ミーリアは俺の耳元で一つのアイデアを提案した。

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