天誅の牙はすべてを灰塵に帰す!③
「弟よ! 何をするのだ!」
「だめだよ~。兄さん。ダメダメダメダメ」
「む? 何がダメだというのだ?」
「兄さんは騙されやすいんだからさ~。簡単に他人を信じちゃ。だ~めっ!」
『赤い牙』はそう言ってにやりと笑う。
「あの女、さっきからずーっと魔力が揺れてたよ。きっと嘘ついてる」
「何!?」
そう言って、『青い牙』は先ほどまでミーリアが立っていたところを睨みつける。
その場所には地面が焦げたあとしか残っていなかった。
◇◇◇
「レイン。どこへ向かっているんですか?」
「とりあえず、アイツらの索敵圏内から出ないと」
俺は『赤い牙』とかいうやつが攻撃した瞬間にミーリアを回収して全力で逃走に移った。
現在も絶賛逃亡中だ。
とりあえず、軍隊がいない方向に向かって全力で走っている。
こいつらを引き連れて行ったら軍がどうなるかわからないからな。
「クソ。追ってきた」
逃げれば追っかけて来ないんじゃないかと淡い期待を抱いたのだが、残念ながら、向こうは殺る気満々らしい。
九割がたこうなると思ってたから人がいない方に逃げたんだけど。
「ほらほら〜。早く逃げないとあたっちゃうよ〜」
誰かの声が聞こえた直後に背中から強力な魔力が迫ってくる。
おそらく、どっちかが魔術を使ったのだろう。
俺は大きく左へ飛んで魔力の波を避けた。
その直後、俺たちがさっきまでいたところを大きな火の玉が駆け抜け、少し先で大きな爆発を起こす。
俺が避けたと気づいたのか魔術の残滓は執念深く当たりを焼き続ける。
火属性の魔術だ。
現代の魔術師は一種類しか魔術を使えないことが多い。
多分、どちらかが火の属性なんだろう。
名前から言って、赤い牙の方かな?
「逃げるな!」
また魔力が近づいてくる。
俺は近くにあった木を足場にして大きく飛ぶ。
チラリと背後を見ると、さっき足場にした木に大きな氷柱が何本も突き刺さっている。
こっちは水属性か。
一番早い風属性が居なくてよかったと思うべきか?
いや、こいつらは教会のの人間だ。
この辺の魔術師と一緒に考えるのは危険か。
(……どうする?)
このまま逃げ続けても撒けない気がする。
俺一人ならなんとでもなるが、今はミーリアを抱えている。
この状態で全力を出すとミーリアがどうなるかわからない。
鞄や衣服なら壊れても「仕方なかったね」で済ませられるけど、ミーリアに怪我でもさせれば一生後悔するだろう。
魔術で治せるとかそういう問題ではないのだ。
では、追ってきている奴らを倒すべきかと聞かれると、そうとも言い切れない。
あいつらは教会の人間だ。
そういう奴らを倒してしまうと、後処理が大変そうだ。
逃げ切っても後が大変だとは思うが、倒してしまった時ほどではない。
「魔の森に突っ込みましょう」
「え?」
「彼らも魔の森までは追ってこないはずです。教会では魔の森は禁忌の地とされていますから」
「……そういえば」
教会は魔の森を禁忌の地として立ち入りを禁止している。
敬虔な教会の教徒は魔の森の近くに住むことさえ忌避するらしい。
実際、俺が対魔貴族として働いていた時代は教会の教徒はほとんど見なかった。
それ以前に神聖ユーフォリアローレシウム人民聖王国は魔の森を切り開いているため、教会に無茶苦茶嫌われていたので、教会の信徒は国の中にほとんどいなかったんだけど。
(天誅が教会の信徒なら、魔の森に逃げ込めば追ってこない可能性は高い……か?)
彼らが本物の天誅で教会の信徒なら追ってこない可能性はあるかも知れない。
だが、この場所は魔の森の近くだ。
こんなところにまで出向いてくるということは普通に魔の森の中にも入ってくるかもしれない。
「ほらほら〜。あたっちゃうよ〜♪」
「くっ」
飛んできた火の玉を素早く飛んで避ける。
直線的に飛んできるので、避けることは比較的容易だ。
射線上から離れればいいだけなのだから。
「そうくると思ってた〜〜、よっと♪」
「なぁっ!」
次の瞬間、火の玉は進路をを変え、俺の避けた方へと飛んできた。
「『風防』!」
「!!」
俺は風の防壁を作り、火の玉を防ぐ。
火の玉は風の防壁に当たると呆気なくたち消えた。
威力は大したことないらしい。
それよりも……。
(こいつ、発動後の魔術に干渉できるのか!?)
発動した魔術に干渉することはそこまで難しくない。
これができないと魔術に細かい指示が出せないし、アリアたちも当然のようにできる。
だが、これは知らないとできないことだ。
パソコンはスイッチを押せば簡単に立ち上げることはできるが、それを知らなければただの箱なのと一緒だ。
色々といじっていれば正解に辿り着くかもしれないが、なかなか難しい。
まず、ただの鉄の箱をいじってみようという発想に辿り着くことが稀だ。
つまり、こいつらは古代魔術師文明の知識を一定以上受け継いでいるってことになる。
もしかしたら、俺と同じくらいの知識はあるかもしれない。
であれば、俺の秘密に気づくかもしれない。
そうなれば最悪だ。
修行方法がバレればアリアたちのいる村がバレるかもしれないし、そうでなくても、強い魔術師がいるとバレれば粘着されるのは間違いない。
少し無茶をしても撒いてしまう必要がある。
「……いこう。魔の森に」
「はい」
俺たちは魔の森の方へと進路を変えた。
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