天誅の牙はすべてを灰塵に帰す!②

「おや? おやおやおやおや?? おん〜やぁ〜??? こいつら、見たことないよね? それにすんごくよわ〜い! つまり、偽物だよね? どうする〜? どうする兄さん?」

「まあ待て弟よ。まずは話をしないと。『まずは会話から、拳で語るのはそのあとだ』と十三使徒のアムストング卿も言っているだろ? それに、そっちの女は下人にしては魔力が強い。確認して損はないだろう」

「はぁーい」


 二人はゆっくりと俺たちに近づいてくる。

 一人は長身で、背筋をピッと伸ばしており、話し方から言って武人気質の存在のようだ。もう一人は少し小柄で先を行く男性の後ろをふらふらとついてきている。

 どちらも相当な魔力量だ。


「レイン。この2人はもしかして」

「……多分、こいつらが本物の天誅だ」


 二人とも相当な魔力量だ。

 この魔力量から言って、さっきの魔術の爆発はこの二人がやったと見て間違いない。

 この二人ならさっき感じた魔術を放っていてもおかしくない。


 それに、装備も充実しているように見える。

 さっきの暴風の中でもフードが取れなかったところを見ると、あのローブも魔道具だろう。

 それも、俺が道具に付与魔術をかけて作った使用期限つきのなんちゃって魔道具じゃなくて、錬金術を使って作った本物の魔道具だ。

 しかも、ローブ自体が結構新しく見える。


 衣服なんかは魔術で修繕しながら使ってもどうしても綻びが出てくる。

 あんな純白なローブならなおのことだ。

 『修復』の魔術を使っても細かい汚れなんかは取れないからな。

 それがアレだけ綺麗だということは最近作られたものなのだろう。


 つまり、その魔道具を作れる錬金術師がバックにいるということ。

 もしかしたら、『天誅』という組織は俺たちが思っていた以上に大きい組織なのかもしれない。


「お前らは何者だ?」

「兄さん、兄さん! 『人に名前を聞くときはまず自分から名乗るものだ』って先生も言ってたよ?」

「……私は『天誅』に所属している『青い牙』だ。こちらは弟の『赤い牙』。お前たちは何者だ?」

「……」


 俺たちはどう答えるべきか悩む。

 ここで正直に答えれば間違いなく戦闘になる。

 だが、じゃあどう答えればいいのかと聞かれても俺にはいい案が思い浮かばなかった。


 天誅の大ファンでコスプレしてますとでもいえばいいか?


「(レイン。ここは私が)」

「(頼む。何かあったら俺が絶対に守るから)」

「(お願いします)」


 ミーリアが一歩前に出る。

 天誅の名前すら知らなかった俺が対応するよりミーリアが対応した方がまだ戦闘にならない可能性が高いだろう。


 俺は天誅の2人に気づかれないようにゆっくりと魔力を活性化し始める。


 ミーリアは滑らかな動きで両膝を突き、スッと神に祈りを捧げる姿勢を取る。

 俺はそれに倣うように同じ姿勢をとった。


「きゃー! 本物に会えるなんて感激です! 私たち、天誅の大ファンなんです!」

「む?」


 いつものミーリアからは考えられないようなテンションの高い声が聞こえてずっこけそうになる。

 俺は吹き出すのをこらえるので精一杯だった。

 祈りの姿勢で顔を伏せていて本当によかった。

 いま、絶対にひどい顔になってる。

 ローブの効果で顔は見えないとはいえ、表情まで隠せているわけではない。

 俺の顔を見ていたら一瞬で演技がバレただろう。


「この腐りきった世の中! 誰かが神の! 我らが始祖、ヨハンス様の威光を取り戻さなければいけません! その活動にふさわしいものこそが天誅! ですが、天誅は下々の前に姿を表したりしません。であれば! であればです! 僭越ながら我々が天誅様の代わりに世直しをするしかありません。その行動にこれ以外の格好はありましょうか! いや、ありません!!」

「ふむ」


 ミーリアは一息に全てを言い切った。

 論理が破綻していた気もする。

 ミーリア自身もかなり苦しいとは思っているのだろう。

 ミーリアの魔力が不安げに揺れていた。


 顔を伏せている俺からは天誅の二人の顔色は窺えない。

 だが、魔力探知で相手の魔力を探ってみるが、二人の魔力は活性化していない。

 ここで襲うつもりがないということか、活性化せずとも倒せるくらい格下だと思われているのか……。


 冷や汗を流しながら状況を伺っていると『青い牙』と名乗った男が一歩前に出てくる。


 やっぱりだめだったか……。


「素晴らしい!!」

「「へ?」」


 俺は思わず顔を上げてしまった。


 しまったと思ったが、心配はいらなかったらしい。

 『青い牙』は俺たちに満面の笑みを向けていた。


「其方らの献身。あっぱれだ! 私も今の歪んだ世はたださねばならぬと思っていた! だが、我々にもやらねばいけないことは多い! それをわかっていないものが多すぎるのだ!」

「そ、その通りです」


 俺はポカンとして動けなかったが、ミーリアは満面の笑みで相づちを打つ。

 どうやら、うまくごまかせたようだ。


「いやー。今日は実にいい日だ! 貴女のような私と同じ志を持った者と出会えるとは! これもヨハンス様の導きに違いない! これからもこの腐りきった世の中をただすため、いっしょに精進していこうではないか!」

「こ、光栄です!」


 『青い牙』は満面の笑みで右手をミーリアに向かって差し出す。

 ミーリアは立ち上がり、『青い牙』の差し出す右手に右手を伸ばした。


 次の瞬間。ミーリアのたっていた場所に真っ赤な火の玉が着弾し、森の中に轟音が響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る